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Tadashi Kawamata [Walkway]

Tadashi Kawamata [Walkway]

目的のない通路をさまよう快楽。

08 1/15 UPDATE

東京都現代美術館の巨大な展示室を埋め尽くす「通路」。ベニヤ板の壁が作る曲がりくねった通路が続く。明確な目的はなく、淡々とただ通り過ぎるためだけの通路だ。板の隙間から他の観客の姿が見えることも。ドクメンタやヴェネツィア・ビエンナーレに招待されるなど、世界的に活躍している川俣正が6年ぶりに日本の美術館で開く個展だ。

川俣はこれまでサイト・スペシフィックなプロジェクトを多く手掛けてきた。トロントでは有名なジャズクラブがあった場所に、解体されたクラブの建材をワイルドに組み合わせたインスタレーションを制作。場の記憶と日常生活が交錯する場を出現させた。オランダの麻薬中毒患者やアルコール依存症患者のリハビリ施設では近隣に遊歩道を作っている。幅2メートルほどの遊歩道を患者が自分たちで作っていくというプロジェクトだ。2005年の横浜トリエンナーレでは総合ディレクターを担当、国内外のアーティストたちと協働しながら展覧会を作り上げた。

これまでのプロジェクトに比べると今回の作品はいくぶんクールな印象だ。東京という土地や歴史と深い関わりがあるわけではないし、地域の人々とともに汗を流して作り上げる熱さもない。そのかわり、この作品は観客をより積極的に巻き込む。観客は「通路」という作品だけでなく、通路を通る他の観客も見ることになる。見に来た自分自身も他の観客から見られる。観客も作品となってしまうのだ。

存在感のない、空虚な通路は積み重ねや意味づけを無効にしてしまう。捕まえようとしても捕まえられない、とりとめのない感じも。どこに向かっているのかわからない通路で迷ってみるのも、おもしろい体験になるはずだ。

Text: Naoko Aono

川俣正[通路]

2月9日~4月13日
[問]東京都現代美術館
東京都江東区三好4-1-1
10:00~18:00 月休(2月11日は開館、12日休館)
一般1000円 パスポート券2000円
Tel. 03-5777-8600(ハローダイヤル)
http://www.kawamata.mot-art-museum.jp/

1《椅子の回廊》
サルペトリエール病院サン・ルイ教会、パリ(1997)
photo©www.leovanderkleij.com

2《ワーキング・プログレス》
アルクマー(1996―1999)
photo©www.leovanderkleij.com

3《デストロイト・チャーチ》
ドクメンタ8、カッセル(1987)
photo©www.leovanderkleij.com

4《把捉》
田村画廊(1980)
©KAWAMATA + on the table