08 4/23 UPDATE
丸めた紙を写した写真。粒子の粗い拡大コピーのような街角の風景。壁に何気なく貼られた旅の記念写真のようなイメージ。東京で4年ぶりに開かれているヴォルフガング・ティルマンスの個展風景だ。どれも紙という素材なのだけれど、それぞれに異なる質感を持っていて、全く違うもののように感じられる。
中でも一昨年に発表された「Lighter」(「Lichter」)というシリーズはユニークだ。しわくちゃに折り曲げられた印画紙は薄い金属板で作られたオブジェのようにも見える。実際、ティルマンスは写真をオブジェだと考えている。「写真は立体を平面に翻訳するものだけれど、ここでは平面である紙で立体を作っている。通常の写真とは逆の手続きで作られた、コンセプチュアルな作品なんだ」。
その紙にティルマンスは人々の行為や、その結果作られたものを定着させようとしている。今回の個展のインスタレーションにも建物やデモ隊といったイメージが一見脈絡なく並ぶ。1968年にドイツで生まれ、ロンドン、ニューヨーク、ベルリンと移り住んできた彼は冷戦の終結やそれに伴う価値観の変化を間近に見てきた。「どんなに強固な建物でも紙のように崩れてしまうかもしれない。人生には意味のあることと意味のないこと、共通することと矛盾することとが同時に起こる」。ティルマンスが慎重に組み立てたインスタレーションはそんな状況をさりげなく示唆する。「アートが明快なメッセージを持つべきだとは思わない」という彼が目指しているのは「一見かけ離れたものの間に橋を架けること」だ。壁に無造作に貼られたように見える写真や額装された写真との間にある余白を「読む」こと。彼の空間にはそんな密かな楽しみも隠されている。
Text:Naoko Aono
ヴォルフガング・ティルマンス
「Lichter」展
開催中~5月24日まで
ワコウ・ワークス・オブ・アート
東京都新宿区西新宿3-18-2-101/103
11:00~19:00
日・月・祝日休
Tel : 03-3373-2860
Lighter 50, 2008
George and Dragon, 2008
Forever in Love I, 2008
Freischwimmer 115, 2007
“Lighter” series, 2007
©Wolfgang Tillmans
Courtesy of Wako Works of Art