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見上げるほど巨大な男性像があったかと思うと、普通の人間の半分もないような小さな人物像が置かれている。横たわる新生児や中年の女性はギャラリーを埋め尽くすかと思われるほど。ロン・ミュエックの作る人体彫刻は極端に大きいか、小さいかのどちらかだ。髪の毛やしわ、毛穴まで克明に再現されて、スケールを除けば本物そっくりにできている。見ていると呼吸や心臓の鼓動まで聞こえてきそうだ。
オーストラリア出身のミュエックは以前、子供向けのテレビ番組やデヴィッド・ボウイ主演の映画「ラビリンス」の人形などを作っていた。正規の美術教育は受けていないが、卓越した造形技術はこのときに築かれたものだ。現在はロンドンを拠点にアーティストとして活動している。
彼が作る人物像はどれも弱々しい印象だ。ときに悲しそうな、ときに途方に暮れたように見える表情が人間の弱さを露呈する。巨大であっても、自らの意志ではどうにもならない現実にとまどい、おびえているようだ。それはあらゆる人が折に触れてとらわれる感情でもある。だから観客は、彼の作品から目をそらすことができなくなってしまうのだ。
日本の美術館では初めての個展になるこの展覧会には、7点の作品が出品される。それらはその巨大さゆえ、あるいは小ささゆえに観客自身の身体と作品との関係をより強く意識させる。見る角度によって異なる表情を感じさせる作品も。間近で見ることでさまざまな発見がある展覧会だ。
Text:Naoko Aono
ロン・ミュエック展
4月26日~8月31日
[問] 金沢21世紀美術館
石川県金沢市広坂1-2-1
Tel:076-220-2800
10:00~18:00(金~20:00)
月曜休(4月28日、5月5日、7月21日は開場、5月7日、7月22日は閉場)
《イン・ベッド》
Ron Mueck, In Bed, 2005
Queens Land Art Gallery, Brisbane
©Artist Courtesy: Anthony d’Offay, London
《野性的な男》
Ron Mueck, Wild Man, 2005
Private Collection, London
©Artist Courtesy: Anthony d’Offay, London