08 8/15 UPDATE
美術館の空っぽのギャラリーを全力でダッシュする人々。毎日ギャラリーがあいている時間は朝から夕方まで、30秒おきに人が走り抜けていく。美術館なんだからたぶんアートなんだろう、という推測はあたっている。イギリスのアーティスト、マーティン・クリードの個展なのだ。
走っているのはクリードがスポーツ誌などで募集した人々。「85メートルの距離を全力で、観客にぶつからないように走る」のが条件だ。ちなみにランナーには時給9・35ポンドが支払われる。
クリードは2001年に「ギャラリーの照明がついたり消えたりするだけ」という作品でターナー賞を受賞、一躍注目を集めた。今回の作品「Work No. 850」はイタリアのパレルモでカプチン修道会のカタコンブ(死者を葬った洞窟)を見学したときの経験がもとになっているという。到着が遅れて見学時間が5分しかなく、走って洞窟を見学。それを骸骨が見ていると思ったら笑いがこみあげてきて、「これを美術館でやったらおもしろいのでは?」と思ったのだそうだ。
彼は「Work No. 850」についてこんなことも言っている。
「力いっぱい走っていると『生きている』という実感がわいてくる。絶対的な静止状態が死なのだとすれば、できる限り速く動くことは究極の『生』だと思う」
じっとしていることに恐怖を覚えるから動き続ける、とも言うクリード。この作品はそんなライトな強迫観念からの逃走なのかもしれない。
Text:Naoko Aono
マーティン・クリード「Work No. 850」
開催中〜11月16日まで
10:00〜17:50(第一金曜日〜21:00)
入場無料
[問] テート・ブリテン
Millbank, London
tel. +44 20 7887 8888
http://www.tate.org.uk/britain/
Martin Creed Work No. 850 2008
© The artist. Photo: Hugo Glendinning
Tate Britain Duveens Commission 2008: Martin Creed Work No. 850 2008
© PUMA.com. Photo: Lars Hansen