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M/M (Paris): The Theatre Posters

M/M (Paris): The Theatre Posters

劇場ポスターの枠を超える自由な発想で生まれた
12年以上にもおよぶ『M/M (Paris) 自身のパラレル・ライフ』

08 11/19 UPDATE

現在、ギンザ・グラフィック・ギャラリーで行われている「M/M (Paris): The Theatre Posters」。アート、デザイン、ファッション、それぞれの世界から高い注目を集め続ける M/M (Paris) の二人が1995年から手がけてきたフランス、ブルターニュ地方の小さな劇場であるロリアン劇場の演劇のポスター・シリーズを、ここでは一挙に41枚にわたって紹介している。オープニングにあたり来日したM/M (Paris) のマティアスとミカエルの二人に話を聞いた。

──まずはパリでなく、ロリアンという小さな町の劇場の仕事をするようになったきっかけを教えてください。

マティアス(以下M)「'90年代初頭──正確には1993年、ミカエルが制作したハウス・ミュージックのファンジン『EdEN』というのがありました。『EdEN』はM/M (Paris)によってポストカードのサイズにデザインされたおかげで、レイヴに行くような若者が、お尻のポケットに入れてあらゆる場所に持ち出すようになりました。そしてそれはフランスのあらゆる社会の層に潜入していくのです。ついに1995年、その『EdEN』は、レイヴには決して行くようなことのない種類の人間であるブルターニュのロリアン劇場のディレクターの目に留まり、そのグラフィック・デザインをいたく気に入った彼はM/M (Paris) のことを知ることになったのです。そして彼、エリック・ヴィニエは私たちにロリアン劇場のすべてのグラフィック・コミュニケーションをまかせたいと言ってくれました」

──このように長く継続的なプロジェクトに関わることは、デザイナーとしてはどのように感じますか?

M「このロリアン劇場のプロジェクトは12年以上のプロジェクトです。M/M (Paris) をはじめてからは、ほぼ15年になります。この『ロリアン劇場』のポスター・シリーズはもはやM/M (Paris)のパラレル・ライフとも言えます。すべては今っぽいアイデア、あるいは奇抜なアイデアだけに縛られ続けているグラフィック・デザインという世界にあって、このような長期にわたるプロジェクトに関われるのはとても稀なことだと思っていますし、幸運なことだと思っています。
それはその時々の私たちのクリエイションをそのまま映すミラーのようで、このポスターがロリアンの街に飾られているのを目にすると、まるで自分たちのポートレートが飾られているような気さえしてしまうのです。人生のスケールで見るなら、プライヴェートなトラベル・ノートとも言えると思います」

──それぞれのポスターにはそれぞれの演劇と直接的なつながりがないようなイメージが使われているように見えるのですが?

M「オオ、ノンノン! それはとてもひどい誤解ですよ。反対に私たちはそれぞれの演劇のテーマとの関連性から慎重にそれぞれのイメージを選んでいるのです。それぞれのポスターはそれ自体で、その演劇を表現するひとつの提案であるとも言えます。単なる演劇のイラストではありません。日本の象形文字である漢字も、これに似た表現であると思います。例えば"馬"という文字があなたの文化、あなたの経験、あなたの人間的なものさしを通してみれば馬を表す象形文字であるように。例えばマルグリット・デュラスによる戯曲『サヴァンナ・ベイ』のポスターです。これで私たちはビヨークを撮影している女性フォトグラファーのイネス・ヴァン・ヴェルデの写真を使いました。確かにデュラスの『サヴァンナ・ベイ』はアイルランド出身の女性シンガーのストーリーではありません。が、それは、異なった人生のアプローチをもつ2人の女性の関係を描いた戯曲なのです。それぞれのポスターを作るにあたって、私たちはその演劇の脚本を注意深く読み、時にはその作家に会って話を聞くことだってあるのです」

──大変失礼いたしました。では、このポスター・シリーズを制作していて最も面白いところはどこでしょうか?

M「このポスター・シリーズは、まるで姿の見えない目撃者の2つの目のように、私たちの後をずっと追いかけてくることです。そして、私たちは、その目撃者はM/M (Paris)のすべてを知っていることを知っています。さらには私たちもその目撃者のすべてを知っているということを知っているということです。これからも、この美しいポスター・シリーズは私たちが年を重ねるように、ともに年を重ねていくことでしょう」

M/M (Paris)の作風の変化を如実に表したように変化していく、この生きたシリーズこそ、ある意味で今や彼らのライフ・プロジェクトといっても過言ではないだろう。

この後11月20日からはニューヨークのドローイング・センターでの個展も始まり、さらにこの2年をかけて制作してきた桁外れの作品本『Napoleon, the greatest movie never shot by Stanley Kubrick』も間もなく発売になるというM/M (Paris)。そんな彼らのこれまで12年の年輪をぜひたどってみてほしい。

M/M (Paris)
マティアス・オグスティニアックとミカエル・アムザラグによる二人組。1992年結成。M/Mは自身を、文化と広告の間を戦略的かつクリエイティブに仲介する存在ととらえ、作品を通して既存の秩序が持つ枠を広げようと試みる。ファッションデザイナーやブランドとのコラボレートに、A.P.C、バレンシアガ、ブルマリン、カルバン・クライン、マーク・ジェイコブスなど。またVogue Paris、ARENA Homme+、Purple誌のクリエイティブ・ディレクションやデザインにも関わる。音楽関係ではビョーク、マドンナのほか、ザ・マイクロノーツ、バンジャマン・ビオレといったフランス人アーティストとの仕事がある。デザイン活動と並行して、世界各都市での展覧会を通じて独特の手法を発展させてきた。今年に入ってからだけでもギャルリー・エール・ドゥ・パリ(2008)、ポンピドーセンター(2008)、ニューヨークのグッゲンハイム美術館(2008)やドローイング・センター(2008)などで作品展示。CDDBブルターニュ演劇センター・ロリアン劇場の依頼を受けて1995年以来制作してきたポスターのプロジェクトは現在も進行中である。
http://www.mmparis.com/

Photo & Interview: Shoichi Kajino

「M/M (Paris): The Theatre Posters」
~11月26日(水) まで
11am-7pm (土曜日は6pmまで)
日曜・祝日は休館
入場無料
ギンザ・グラフィック・ギャラリー
http://www.dnp.co.jp/gallery/ggg/