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山中俊治ディレクション「骨」展

山中俊治ディレクション「骨」展

見たこともない「骨」が
見せる、機械と生命の間。

09 7/10 UPDATE

人間や動物の体にも、電化製品やいろいろな道具にも「骨」がある。ふだんは見えないし、あまり意識することもないけれど、生き物や道具の動きを決める重要なパーツだ。「21_21 DESIGN SIGHT」で開かれている「骨」展はその見えないパーツに光をあてたもの。見たこともない「骨」が並ぶ。

たとえば、アーティストの前田幸太郎が作ったのは蜘蛛の「骨」。蜘蛛には体を内部からささえる、いわゆる「骨」と呼ばれる器官は存在しない。つまりこれは空想上のオブジェだ。でもひんやりとした静けさをたたえる"蜘蛛の骨" には、ありえないはずのリアリティに支えられた美がただよう。

展覧会のディレクターである山中俊治と、彼が教授を務める慶應義塾大学の研究室が共同で制作した「Flagella」は触手を持つ生き物か、イソギンチャクのようにくねくねと踊るロボット。が、注意深く観察すると、このロボットはすべて硬いパーツでできていて、ねじれるように回転しているだけであることがわかる。シンプルな形と動きを組み合わせただけで、まるで生きているような、なめらかで有機的なものに感じさせてしまう。「Flagella」という名前は回転運動によって動く唯一の生命体「鞭毛(べんもう)」からとられた。私たち人間が何を生命と認識するのか、その境界線までゆさぶられる。

独特のウェブデザインで高く評価されているTHA/中村勇吾は、トラス状の構造体がスクリーンの上から落ちてきて、壁や床にぶつかって壊れる、というコンピュータプログラムを作った。設計会社で大型建築物の構造設計に携わっていた、中村の経験が活かされたものだ。構造体は数字になっていて、4つ並んだスクリーンはデジタルクロックの要領で時刻を表す。構造体が床や壁に触れるたびにトラスが歪んで分解し、棒状になってきらきらと飛び散っていく。骨は壊れるときが美しい、そう感じた中村が生み出した"時計"は見飽きることがない。

その他、ふいごで風を吹き込むと「フォーホッホッホ」とちょっと不気味な笑い声を上げる明和電機のロボット「WAHHA GO GO」(観客も操作可能)、精妙な動作で矢をつがえて射る骨からくり「弓曳き小早舟」(こちらは毎週末、実演のイベントがあるので手を触れないように)、猛烈な勢いで逃げだそうとするかに見えるtakramのロボット「Phasma」など、奇妙で愛すべき「骨」たちが並ぶ。家電や椅子、時計に潜む「骨」をあらわにした展示もおもしろい。見終わったあと、自分の骨がいとおしく思える展覧会だ。

Text:Naoko Aono

山中俊治ディレクション「骨」展
開催中〜8月30日
21_21 DESIGN SIGHT
東京都港区赤坂9−7−6
tel. 03-3475-2121
11:00〜20:00、火曜休
一般1000円


1前田幸太郎「骨蜘蛛」
2慶應義塾大学 山中俊治研究室「Flagella」
3明和電機「WAHHA GO GO」

撮影:吉村昌也