09 11/12 UPDATE
ベルリンの壁が崩壊して20年。ずいぶんいろんなことがあったなあ、と感慨にふけってしまった。ドイツの女性アーティスト、レベッカ・ホルンの個展だ。
レベッカは1944年生まれ、ドイツを代表する現代美術作家。彼女が作品を発表し始めたのは20代のころ。ドイツで開かれる国際的な現代美術展「ドクメンタV」に参加。以来、羽や角をまとって行うパフォーマンスで注目を集めた。
身体の機能を拡張するかのようなパフォーマンスは次第に発展し、身体にまとっていた機械仕掛けの羽や鏡は独立した、動くオブジェへと変貌する。またそれらの身体や機械が登場する映画の制作にも着手、奇妙な物語世界を広げていった。
東京で開かれている展覧会は日本では初めての本格的な個展。ワンフロアに立体が、別のフロアに映像作品が並ぶ。立体作品が並ぶフロアではまず、天井の高いところに吊されたグランドピアノに驚かされる。細いロープで支えられたピアノを見上げていると突然、大きな音とともに蓋が開き、鍵盤が滑り出してくる。その15分後には何事もなかったかのように鍵盤が引っ込み、また15分後に飛び出して、というサイクルを繰り返す。
《ジェイムズ・ジョイスのためのヌーグル・ドーム》という作品は、左右それぞれ4本のナイフがモーターで動くというもの。ナイフには「LOVE」「HATE」という文字が書かれている。愛するにしても、憎むにしても傷つけあうことになるのだろうか、それとも?
こうやって書くとなんだか怖いものに見えるかもしれない。が、実際に作品を前にするとなんだかユーモラスな感じがするのだ。できの悪い機械にペットのような愛情を覚えるのと似ている。作品によっては露骨に性的なものもあって、品のない笑いがこみ上げる。
ベルリンの壁があったころならこれらの作品にも、もっと政治的なメッセージが感じられたかもしれない。レベッカ自身、来日した際の記者会見で「以前は歴史的、社会的な事柄によりダイレクトに介入していたけれど、最近では少し距離を置いている。望遠鏡越しに世界を見て、それから作品を作るような感じなの。その距離感を大事にしたい」と語っていた。
社会も変動したし、人間も変わる。同じアート作品でも見え方が変わってくることもある。それにしても変化の激しい時代だったんだな、と改めて思うのだ。
Text:Naoko Aono
「レベッカ・ホルン展」
開催中〜2010年2月14日まで
東京都現代美術館
月休(11月23日、1月11日は開館、翌日休、12月28日〜1月1日休)
一般1200円
《愛人たち》 1991
Photo: Attilio Maranzano ©2009:Rebecca Horn [参考図版]
《ジェイムズ・ジョイスのためのヌーグル・ドーム》
Photo: Gunter Lepkowski ©2009:Rebecca Horn
《アナーキーのためのコンサート》1990
Photo: Attilio Maranzano ©2009:Rebecca Horn