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『Tony Oursler LOCK 2, 4, 6』展

『Tony Oursler LOCK 2, 4, 6』展

狂気あふれるアートにかいま見える
アーティストの知性。

09 11/26 UPDATE

「エグイ系アート」というカテゴリーがあるとしたら、トニー・アウスラーは間違いなくそのトップに立てるはず。1957年ニューヨーク出身、今もニューヨークを拠点に活躍しているアーティストだ。70年代にビデオ・アートの制作を初め、その後、布で作った人形にビデオを投影し、表情だけが動く不気味なオブジェを発表している。アーティスト、マイク・ケリーとバンド「ポエティクス」を結成したり、デヴィッド・ボウイやU2のステージに映像作品を提供したこともある。

こうしてアート業界以外の人々とも親しくつきあっているアウスラーは、美術館の外で自分の作品を見せることにも積極的だ。町中の木や煙に映像を投影するパブリック・アートのプロジェクトも多数、発表してきた。

オーストリアのブレゲンツ美術館で開かれている個展では哲学者のダン・ロイドとコラボレーション、MRI(磁気で体内の様子を探る装置)画像を使ったインスタレーションを展開している。作品は「電気消した?」という問いかけから始まる。家を出たあとにこう考えてふと心配になる人は多いはず。たいていの人は「いや、消したから大丈夫。」とすぐにその不安を忘れてしまうけれど、それにとりつかれて強迫観念となってしまう人もいる。

館内の3つのフロアを使ったアウスラーのインスタレーションは、その不安を増幅させる不気味さに満ちている。「自分にいいイメージを持ったことなんてないでしょ」と歌うど派手な衣装を着たドラッグ・クイーンたち、観客に向かって叫ぶ無邪気な子供、頭部のMRI写真、ボトル、電球。そんな混乱したイメージが展示室の壁や天井を埋め尽くして、観客を取り囲むのだ。

11月22日まではペーター・ズントーが設計した美しい美術館の外壁にアウスラーの作品が投影される。町中にある縦横3メートル以上のビルボードにもアウスラーの作品が。リモコン、スクラッチ・カード、リキッド・ソープなどをモチーフに、消費社会に翻弄される人々のカラフルな肖像が描かれる。ビルボードは会期終了の2010年1月17日までの展示だ。

もちろん作者は気が狂っているわけではない。「本当に気が狂った人には、気が狂ったような物語は書けない」という某作家の言葉を思い出してほしい。常人には作ることのできない世界を見せてくれる、その知性も楽しめる展覧会なのだ。

Text:Naoko Aono

『Tony Oursler LOCK 2, 4, 6』展

開催中〜2010年1月17日まで
ブレゲンツ美術館
arl Tizian Platz, Bregenz, Austria
tel: (+43-5574) 48594-0
10時〜18時(木曜〜21時)
月曜休
一般8ユーロ

http://www.kunsthaus-bregenz.at/

1「LOCK 2,4,6]美術館3階でのインスタレーション
Photo:Markus Tretter
© Tony Oursler, Kunsthaus Bregenz

2Gaze Heuristic (slime biased), 2009
「LOCK 2,4,6]美術館3階でのインスタレーション
Photo:Markus Tretter
© Tony Oursler, Kunsthaus Bregenz