09 11/19 UPDATE
デジタルカメラが普及して、写真の表現の幅が大きく広がってきた。映像でも同じことが起きている。以前に比べるとはるかに低予算かつスキルがなくても、クオリティの高い作品を制作することができるようになったからだ。そんなわけで映像アートの世界では時間をシャッフルするもの、オブジェと絡み合って時空を超えるかのような場を生み出すものなど、多彩な表現が登場している。「CREAM ヨコハマ国際映像祭2009」はそれら映像表現の最先端を一挙に紹介するアート・フェスティバル。スタート以来、予想を超えるスリリングな内容に来場者数も増えている。ピピロッティ・リスト、八谷和彦らベテランから、注目の若手まで18カ国、87組の参加アーティストからピックアップした作家を紹介しよう。
グラフィティリサーチラボ(GRL)はレーザーポインタで街にグラフィティを描いている。レーザーポインタだから描いたものは残らず、治安も悪化しない(はず)。彼らはこのレーザーグラフィティが作れるソフトウェアをネットで無料配布している。美術館の展示室から外の社会に出ることで、何かが変わることを期待しているのだ。この彼らの「落書きシステム」を使って参加者が「落書き」できるイベントが11月21日の18時30分から20時30分まで横浜美術館の壁面で行われる。「しちゃいけない」と言われていることを堂々とやれるチャンスだ。
アルフレッド・ジャーの作品は人が数人入れる程度の光る箱。中に入るとあるドキュメンタリー写真をめぐる映像が流れている。モチーフとなっている写真はすぐれたドキュメンタリー報道に与えられるピュリツァー賞を受賞したものの、「報道か人道援助か」といった観点から大きな議論を巻き起こしたものだ。淡々としたインスタレーションを体験するうちに、映像や写真の持つ社会的な力について改めて考えさせられることになる。
地元、横浜出身のSHIMURA BROS.はユカ&ケンタロウの姉妹ユニット。彼らの作品もボックス状なのだが、こちらは箱の外から見るインスタレーション。何かの「輪切り」がだんだんとこちらに迫ってくる。よく見るとそれは、世界中で人気のネズミのキャラクターだ。CTスキャンのような断面図は頭、胴体、足と迫ってくる。彼らはまだそれほど知られていないが、これまでにない才能を感じさせる「恐るべき子供たち」だ。
今週末、11月21日〜23日に開かれるイベントも見逃せない。21日の「DEEP IMAGES」はNHKがこれまでに制作した素材を自由にダウンロードして作品を制作できる「クリエイティブ・ライブラリーズ」を利用したVJイベント。タナカカツキ、伊藤ガビンらがNHKの膨大な映像をどう料理するのかが気になる。22日の「3-part in(ter)ventions」は大友良英、ジム・オルークのセッション。共演予定だった刀根康尚は体調不良につき参加を断念、初公開のライブ映像で参加することになった。23日の「CONCRET Vol.3」ではミュージックコンクレートの第一人者、ミシェル・シオンの日本初ライブを行う。また中編無声映画『EARTH』にボイスパフォーマー足立智美が挑む、という試みも。
ネットには世界中の映像があふれていて、いつでも見られる。そんなことも私たちの意識を変えている今、アーティストたちの鋭い嗅覚から生まれた作品が、その先にくるものを見せてくれるはずだ。
Text:Naoko Aono
CREAM ヨコハマ国際映像祭2009
開催中〜11月29日まで
BankART Studio NYK、新港ピア、東京芸術大学大学院映像研究科馬車道校舎 ほか
1日券:1300円(会期中有効のパスポート:2500円)
上映スケジュールなどは下記を参照
スティーヴン・ピピン《ブラック・ホール》
中央のブラックホールを中心に太陽や惑星が回転するオブジェ。
Steven Pipin "Black Hole"
アルフレッド・ジャー《サウンド・オブ・サイレンス》
有名なドキュメンタリー写真をめぐる映像インスタレーション。
Alfredo Jaar "The Sound of Silence" 2006
グラフィティリサーチラボ(GRL)《ザ・アイ・ライター》
レーザーポインタでグラフィティが描ける装置。
2009, Tony Quan, James Powderly, Evan Roth, Theo Watson, Zachary Lieberman, Chris Sugrue, The Ebeling Group, Parsons Communication Design + Technology
Graffiti Research Lab/photo:Graffiti Research Lab
クリスチャン・マークレー《ヴィデオ・カルテット》
© Christian Marclay. Courtesy of the Paula Cooper Gallery. Photo:Stephen White
SHIBURABROS. 《MMY : Mouse Made in YOKOHAMA》
2009
某ネズミのキャラクターの輪切りが迫ってくる。