honeyee.com|Web Magazine「ハニカム」

Mail News

『内藤礼 すべて動物は、世界の内にちょうど水の中に水があるように存在している』

『内藤礼 すべて動物は、世界の内にちょうど水の中に水があるように存在している』

連続する生と死を旅する、ささやかなアート。

09 12/14 UPDATE

注意深く見ていないと見逃してしまうかもしれない、ささやかなオブジェ。でもひとたびそれを見つけたら、しばらくは目が離せなくなる。神奈川県立近代美術館 鎌倉で開かれている内藤礼の作品には何ともあらがいがたい吸引力がある。

作品は1階と2階に置かれているけれど、どこからどう見始めてもかまわない。2階の展示室は壁にガラスケースが取り付けられている、昔ながらのスタイルだ。そのケースの中に作品が展示されているのだけれど、観客はそのケースの中に入ることができる。ケースの中は"地上の生"で、ケースの外、普段観客が歩いているところは"生の外"なのだ、という内藤は言う。ケースの中にはかわいらしいプリントの布や小さな電球、リボンが並べられている。天井近くには小さな風船が漂う。

「ままごと道具を並べて人生というものを再現しているようなもの。ままごとはアートではないけれど、深いところでつながっている。それに、人生自体がままごとのようなものだと思う。教えられたこと、伝えられたことで生きている」

小花模様の布や、ふわふわと揺れる風船には"生者への慰め"の意味もあるのだという。

「生者が死者を慰める、というけれど、ここ何年か、生者への慰めも必要だ、と思うようになったんです」

展示ケースの中から外、つまりいつも自分が歩いているところを見ると、そこにはほとんど何もなくて、反対側にある展示ケースとその中の電球が見える。展示ケースの中を他の人が歩いているのを見るのもおもしろい。1枚のガラスで隔てられているだけなのだけれど、確かに生と死のはざまを超えてしまったようにも見える。

1階には屋根のない中庭や池に面したピロティ、壁の一部がなく外部に大きく開かれた部屋もあって、外部なのか内部なのかよくわからない場所だ。中庭では細いリボンが2本、高いところから吊られて風に揺れている。少し強い風が吹くと、くるくると舞いあがり、落ちてきてはまた上って、と複雑な動きを見せる。空気の動きを見せるリボンは、風が作る彫刻のようだ。別な場所ではテグスに通した小さなビーズが天井から吊るされて、こちらも風で揺れる。

「風がないと音もなく静止して、重力が形を作る。私が作った形じゃないっていうのが大事なんです」
中庭の壁には目の高さほどのところに、これもまたささやかな作品が設置されている。《精霊(わたしのそばにいてください)》というタイトルの作品だ。この作品が見える位置に立って、「振り向いたときに、誰かいませんか?」と内藤はいたずらっぽく笑う。この言葉の意味はぜひ、会場で確かめてほしい。

Text:Naoko Aono

『内藤礼 すべて動物は、世界の内にちょうど水の中に水があるように存在している』
神奈川県立近代美術館 鎌倉
開催中〜2010年1月24日
9:30〜17:00(入館は16:30まで)
月休(1月11日は開館)12月24日、12月28日〜1月4日、1月12日休み
一般¥700

http://www.moma.pref.kanagawa.jp

1《地上はどんなところだったか》2009年

2《精霊》2009年(2006年ー)

3《恩寵》2009年(1999年ー)

4《無題》2009年

撮影:畠山直哉