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ドイツを代表する現代美術の巨匠、ゲルハルト・リヒター。4年ぶりの個展では新作を含め、「オイル・オン・フォト」シリーズを中心にした作品が並ぶ。小さくても、どこかひんやりとした感じが漂う作品は周囲の空気を確実に変える。
旧東ドイツ・ドレスデン出身のリヒターは1961年、デュッセルドルフに移住。彼が当時取り組んでいたのは、自ら撮影した写真をもとにした「フォト・ペインティング」と呼ばれるシリーズだ。新聞・雑誌の報道写真や、蝋燭やドクロの写真をもとにした絵画も制作している。その後がらっと作風を変えて、色見本のように単色で塗りつぶした長方形の画面を並べた「カラーチャート」、画面を一面グレイで塗りつぶした「グレイ・ペインティング」シリーズを制作。70年代半ばからは刷毛のあとが残るカラフルな抽象絵画が描かれた。かと思うとガラス板によるインスタレーションも制作している。観客の位置によって映り込むイメージが次々と変化する作品だ。これらの手法は繰り返し現れることもあり、よけいに変遷の激しい作家というイメージが強くなる。
こうして劇的に作風を変えてきたリヒターだが、そこには一貫して「絵画は可能か」という問いがある。絵画は現実をどうとらえるのか、我々は現実をどう認識するのか。直接目の当たりにするにしても、写真や絵画を通じて見るとしても、いずれにしろ我々が「現実」だと思っているものには確実なものはないのだ。具象から抽象まで、一見対極にある絵画表現は、現実を認識するための極端な方法論を試しているのだとも解釈できる。
今回の個展に出品されている「オイル・オン・フォト」は写真の上に絵の具を載せ、スキージ(へら)やペインティングナイフでこすることで抽象的な色面を出現させるもの。下地になる写真は風景や人物など、さりげないスナップ写真のように見える。その上を横断(または縦断)していく色の塊は、極薄の色の層を不規則に重ねたようだ。油絵の具のかわりにラッカーを使った新作では印画紙が顔料をはじく具合が違うのか、油絵の具とは少し違うマーブル模様のような様相を見せる。ごく薄い、凹凸の少ない色面で覆われたものも。それぞれに光の反射や透過の様相が異なって、リヒターが実験を繰り返していることが伺える。
この個展にあわせてリヒター自身のテキストやインタビューを収めた書籍「Text Series 01《ATLAS》」を刊行。これまでもリヒターに関する書籍にテキストを寄せているベンジャミン・ブクローやキュレーターのロバート・ストアとの対話などで、リヒターの思考が浮き彫りになる。ワコウ・ワークス・オブ・アートでは今後もアーティストのテキストを収録したシリーズを刊行する予定。次号のヴォルフガング・ティルマンスは何を語るのだろうか。
Text:Naoko Aono
『New Overpainted Photographs』
WAKO WORKS OF ART
開催中~2010年3月6日
11:00~19:00
日・月・祝休廊
Tel:03-3373-2860
© Gerhard Richter
Courtesy of Wako Works of Art
《2.4.08》2008
Oil on photograph
18.5x12.5cm
《15.3.08》2008
Lacquer on photograph
10x15cm