10 3/11 UPDATE
これまでも何度か日本に来ているクリストだが、そこにはいつもジャンヌ=クロードがいた。同じ年の同じ日に生まれた二人は50年以上にわたってともに大プロジェクトを実現させてきた盟友だが、21_21 DESIGN SIGHTで開かれている展覧会のために来日したクリストのわきにジャンヌ=クロードの姿はなかった。昨年11月、突然この世を去ってしまったのだ。
しかしクリストは、立ち止まることなくプロジェクトを進めている。現在とりかかっているのは川の上を大きな布で覆ってしまう「オーバー・ザ・リバー、コロラド州アーカンザス川のプロジェクト」と、ドラム缶を41万個、150メートルの高さに積み上げる「マスタバ、アラブ首長国連邦のプロジェクト」だ。「オーバー・ザ・リバー」が行われるのは2週間の予定。これはまだ実現していないのだが、クリストはすでに「オーバー・ザ・リバー」のために600万ドルを費やしている(よく知られていることだが、クリストはこれらの資金をすべて、自らのドローイングの売り上げなどによってまかなっている)。「マスタバ」は恒久的に設置される予定だが、このプロジェクトに取りかかったのは1977年のことだ。展覧会場にはプロジェクトごとに、準備にかかった時間と実現期間をグラフにした年表が貼られている。準備に何年もかかって、展示期間はほんのちょっと、というのはクリストのプロジェクトではよくあることだ。
プロジェクトはそれぞれ、その場所に限ってプランニングされるものであって、同じものを他の場所でやることはない、とクリストは言う。たとえば1985年に行われたパリのポン・ヌフを包むプロジェクトは美術史と関係している。
「この橋はアンリ3世によって17世紀に造られてから、ルノワールやピカソなどたくさんの画家によって描かれてきた。400年にわたってアートの主題になってきた橋が1985年の14日間、アートそのものになったんだ」
「包まれたライヒスターク、ベルリン1971--95」はベルリンの旧帝国議会議事堂を包んでしまったプロジェクト。ベルリンは冷戦時代にはソ連やアメリカなど4カ国が管理するという、複雑な状況に置かれていた。ブルガリア出身のクリストはその状況に興味を持ち、71年にプロジェクトをスタート。が、なかなか許可がおりない。ベルリンの壁崩壊後も94年にはコール首相が自党の議員に反対票を投じるように命じるなど、さまざまな困難が待ち受けていた。最終的にプロジェクトが実現したのは1995年。クリストは「コール首相が反対したおかげで、プロジェクトに100倍の意味が出た」という。「許可を得るプロセスが、作品に特別な質をもたらすんだ」
クリストとジャンヌ=クロードはいつも、自分たちのために作品を作っているのだという。何を作るか、その基準も「美しくなると自分たちが確信しているもの」だ。その許可を得るための、数年がかりの仕事も彼らは楽しんでいる。こうやって社会と関わることは彼らの主たる目的ではないかもしれないけれど、そんなことも含めて私たちを楽しませてくれるのだ。
Text:Naoko Aono
『クリストとジャンヌ=クロード展
LIFE=WORKS=PROJECTS』
21_21 DESIGN SIGHT
開催中〜2010年4月6日まで
東京都港区赤坂9−7−6 東京ミッドタウンガーデン内
Tel:03-3475-2121
http://www.2121designsight.jp
「オーバー・ザ・リバー、コロラド州アーカンザス川のプロジェクト」2枚組のコラージュ 2005
「包まれたポン・ヌフ、パリ、1975--85」
「包まれたライヒスターク、ベルリン、1971-95」