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Hussein Chalayan

Hussein Chalayan

「旅」から生まれる、フセイン・チャラヤンのアートとファッション。

10 4/19 UPDATE

「すべてはいつもファッションから始まる。他の世界に旅をして、またファッションに帰っていくんだ」

ファッションだけでなく謎めいた映像やオブジェで見るものを引き込むフセイン・チャラヤンの言葉だ。日本での初めての個展も、アートなのかファッションなのか判然としないカオスが心地よい。

彼のデビュー作は数ヶ月間、土に埋めてから掘り起こしたシルクのドレスだった。泥で染められたドレスは長い時の流れを染みこませたような不思議な色合いだ。「慣性」というタイトルがつけられた2009年春夏コレクションは、猛スピードで走る車がそのまま服になったようなシリーズだ。あまりの速さにフロントガラスも変形して、人の体にまとわりつく。LEDやレーザー光線でまばゆい光を放つ服も。それらは人々の崇拝を一身に集める太陽や高価な宝石のメタファーだ。

まとめて見る機会の少ない彼の映像作品を一度に見られるのもうれしい。一人乗りのポッドのような乗り物が自動的に地面をすべり、海を越えてロンドンからイスタンブールへと旅をする「場から旅路へ」は、なめらかに空を切るポッドのスピード感が心地よい。「不在の存在」で服に付着したDNAサンプルから着ていた人の出身地などを推測する研究者は、なかなか正解にたどり着くことができない。生まれた国を出てあちこちを転々としていれば、どこの出身であるか、どの国に帰属しているのかといったことは意味をなさないのだ。

近未来SFのようなクールな映像には、チャラヤンの来歴が反映されている。彼は1970年、北キプロス・トルコ共和国に生まれた。キプロス島は南北に分断されて北側はトルコ、南側はギリシャ系住民が支配し、この二つの間の「見えない国境」は容易に超えられない。12歳でチャラヤンは父に連れられてロンドンに移住、現在はロンドンとイスタンブールを往復しながら創作活動を続けている。「僕はIN-BETWEENという場所が好きなんだ」とチャラヤンは言う。1カ所にとどまることなく揺れ動き続けることが、彼のクリエイションの原点なのだ。

Text:Naoko Aono
Photo:Keizo Kioku

『フセイン・チャラヤンーファッションにはじまり、そしてファッションへ戻る旅ー』

東京都現代美術館
開催中~6月20日

東京都江東区三好4-1-1
Tel:03-5245-4111、03-5777-8600(ハローダイヤル)
http://www.mot-art-museum.jp

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