10 6/02 UPDATE
アニッシュ・カプーアはさらに深く、遠くへ旅をしている。5年ぶりにSCAI THE BATHHOUSEで開かれている個展を見ていて、そう思う。
ギャラリーの一番奥できらめいているのはステンレスのパーツを組み合わせて、大きな球体の一部にしたような作品。前に立つとくぼんだ面に自分の姿が映る。細かいパーツで構成されているから、自分の姿も小さなピースに分割されてしまう。ある一点に立つとほぼそのままの姿になるのだが、微細な歪みが残る。
滑らかで大きな穴があいた石の塊には、日本の漆職人とのコラボレーションによって深い赤の漆が塗られた。何度も塗っては磨き、磨いては塗ってといった工程を繰り返したであろう表面は、その層の一つ一つに光が閉じこめられているように見える。センシュアルかつ哲学的、一見相反する二つの要素が自然に同居しているようにも感じられるのが不思議だ。
透明なブロックの中、水滴が渦を巻いているように見えるオブジェも。2005年の個展で彼は、回転する円筒形の入れ物に赤く着色した水が入れられて、遠心力で中央がくぼむ、という作品を発表した。空気や水、光など常に移ろい、つかむことのできないものに彼はいつも、特別な愛着を示す。
5月にはブルガリのジュエリー・コレクションの中でも人気の高い「B.zero1」のスペシャルバージョンをカプーアが制作。ステンレスを使った彼の作品を彷彿とさせるデザインだ。くぼんだ表面に周囲の景色が映り込み、移り変わっていく。
「世界は美で満ちているけれど、それは静的なものではなく、はかない瞬間でできている。美は見るものと見られるものとの間に起きる何かなんだ」とカプーアはあるインタビューで語ったことがある。その"瞬間"を身につけることができる、それ以上の幸福があるだろうか。
Text:Naoko Aono
『アニッシュ・カプーア展』
SCAI THE BATHHOUSE
開催中~6月19日まで
東京都台東区谷中 6-1-23 柏湯跡
Tel:03-3821-1144
http://www.scaithebathhouse.com
「B.zero1」スペシャルバージョン
全国のブルガリ・ショップで発売中
ブルガリ/ブルガリ ジャパン
Tel: 03-6362-0100
http://jp.bulgari.com/
ブルガリ「B.zero1」スペシャルバージョン
Untitled, 2009年
photo:Dave Morgan, Courtesy the artist and Lisson Gallery
Untitled, 2001年