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第12回ヴェネチア国際建築ビエンナーレ

第12回ヴェネチア国際建築ビエンナーレ

人はいかにして建築で出会うのか。
ヴェネチア国際建築ビエンナーレ。

10 9/08 UPDATE

2年に一度開かれる「ヴェネチア国際建築ビエンナーレ」。各国のパビリオン(展示館)が立ち並ぶジャルディーニと、造船所を改築した巨大なギャラリーがあるアルセナーレの他、市内のサテライト会場でも展示が行われる建築展だ。今年はディレクターに初の女性、しかも日本の妹島和世が就任したことでも話題になっている。テーマは「Meeting People in Architecture」。インターネットで地球の裏側にいる人とも出会えるこの時代に、リアルな建築空間で出会うことにどんな意味があるのだろうか。

歴史と出会う、という意味ではOMAを率いるレム・コールハースの展示がおもしろい。日本では建物の保存・再生というとまだ限られたもののみが対象になっているけれど、「保存先進国」ヨーロッパでは何でも保存しよう、という勢いになっていて、コールハースの設計で1990年代に完成した住宅まで「保存建築物」になってしまった。保存する、ということはその建物や場所を現状のまま封印する、ということだ。住宅の所有者は改修することもままならず、とまどっている。2部に分かれたギャラリーの一つではこういった、保存に関するAMO(OMAのシンクタンク)の調査結果が展示されている。もう一つのギャラリーではOMAが手がけた「保存」に関係するプロジェクトが見られる。何を残すのか、またすでに改変を経た建造物ではどの時点まで遡るのがオリジナルを残すことになるのか、一口に保存といっても複雑な問題をはらんでいるのだ。

ベルギー館では取り壊されたり、改築された建物から不要なものとして取り外された家具や、建物の部材が展示されている。が、そのインスタレーション方法がおもしろい。床だったものが壁に貼りつけられていたり、踏み板を失った階段の手すりだけが壁に寄り添うように取り付けられていたりするのだ。コピーショップに置かれていた傷だらけの机や、色があせたカーペットなどが、それまでとは違う文脈に置かれて、そこに積み重ねられた人々の行為を浮き上がらせる。

アメリカのアーティスト、トム・サックスの展示はル・コルビュジエに捧げたオマージュと思いきや、モダニズム建築への鋭い批評が含まれている。サヴォア邸やモデュロールなど、ル・コルビュジエを知る人にはおなじみのアイコンがどこか空々しい雰囲気で並ぶ。ル・コルビュジエに代表されるモダニズム建築、とくに集合住宅はテクノロジーによって住宅難を解消したが、結果的に貧困を生み出したという負の側面もあることを指摘しているのだ。ドライブスルーで知られるファストフードショップとル・コルビュジエをあわせたタイトル「McBusier」が彼らしい皮肉を表している。

金獅子賞が石上純也に授与されたことも話題になった。彼の作品「Architecture as air」は0.9ミリの柱が林立するインスタレーション。透明さを体現する建築だったが、展示開始後に壊れてしまい、授賞式当日も復元されないまま。それでもあえて賞が与えられたのは、石上の思想やその先進性が評価されたからだろう。経済状況を反映してか、全体に前回よりもおとなしく見える今回の展示だが、建築との人との関わりを真摯に考えた作品が目立つ良質な展覧会だ。

Text: honeyee.com

第12回ヴェネチア国際建築ビエンナーレ
〜11月21日
ヴェネチア(イタリア) ジャルディーニ、アルセナーレ会場
10時〜18時 ジャルディーニは月曜、アルセナーレは火曜閉場
入場料20ユーロ(ジャルディーニ、アルセナーレ共通)
http://www.labiennale.org

1展示館の中にもう一つ、箱を作ったルーマニア館。のぞき穴から中が見える。内部と外部、個人と社会、具象と抽象など、さまざまな対立概念を入れ子にしたような展示。

2トランスゾーラー+近藤哲雄の「Cloudscapes」。ゆるやかな螺旋を描く通路を上っていくと、雲の中に入っていく。人の動きや風で常に移り変わる雲でできた建築。

3ル・コルビュジエの作品をチープな素材でリメイクしたトム・サックスのインスタレーション。モダニズム建築の光と影をアイロニカルに浮かび上がらせる。