11 1/14 UPDATE
1995年に写真集「ベイビイランド」を発表、後に東京の郊外の何気ない風景を淡々と写し出した「TOKYO SUBURBIA 東京郊外」で木村伊兵衛写真賞を受賞したホンマタカシ。彼にとって初めての、美術館での本格的な個展が開かれている。
展覧会はシリーズごとにまとめられて、それぞれ謎かけのような仕掛けが施されている。たとえば雪の上に赤い血のようなものが点々と残された《Trails》。ホンマが北海道で猟師に同行し、鹿の狩のあとを撮ったものなのだという。が、写真には鹿や猟師の姿はなく、狩の痕跡だけが写し取られている。さらに写真の脇には、赤い絵の具で描いたペインティングも。雪の上の赤い模様は本当に鹿の血なのだろうか。そんな疑念がわいてくる。
《Seein Itself》と題された作品がある展示室では衝立にのぞき穴が開けられて、双眼鏡で暗闇をのぞくようになっている。奥にはいくつか写真や映像が見えるのだけれど、双眼鏡で固定された倍率が大きすぎて、なかなかターゲットをとらえられない。かろうじてとらえたイメージもほんのちょっとした手の動きでゆらゆらと大きく揺れる。ぶれるイメージをとらえようと見つめているうちに、マッターホルンやアイガーなど、はるか遠くにそびえる山を撮った写真であるはずなのに、双眼鏡を通して本物の山を見ているような気分になる。
《Tokyo and My Daughter》には一人の女の子の成長過程が生き生きととらえられている。クリスマスツリーではしゃぐ様子、初めて見るのか、羊におびえる姿など、かわいらしい表情には被写体への愛情まで感じられる。タイトルもあいまって、ホンマ自身が娘の成長を追った記録かと思ってしまうけれど、実はそうではない。見るほうが勝手に感情移入し、作りあげてしまった物語の足下がゆらぐのを感じる。
会場は、ホンマタカシがまだ更地だったときから撮り続けてきた金沢21世紀美術館だ。それぞれプロポーションの異なる展示室に、写真だけでなく《Trails》のように絵画や、世界中のマクドナルドを写した写真をもとにシルクスクリーンにした《M》のシリーズが並ぶ。SANAAが特別に設計した小部屋には、これまでのホンマが撮影した広告などの印刷物があらためて複写され、製本された「写真集」が積み上げられている。印刷された作品へのホンマの愛情が現れている。写真のさまざまな位相を示す展覧会だ。
text:Naoko Aono
『ホンマタカシ ニュー・ドキュメンタリー』
開催中〜2011年3月21日
金沢21世紀美術館
金沢市広坂1-2-1
tel. 076-220-2800
10:00〜18:00(金・土〜20:00)
月休(3月21日は開場)
一般1000円
(同時開催の桑山忠明展との共通券)
《M / New York》
2002/2010©Takashi Homma
《Tokyo and My Daughter》より
2010©Takashi Homma