11 3/07 UPDATE
東京都現代美術館で毎年開催されている「MOTアニュアル」。日本・東京の新しい美術を紹介するシリーズ企画だ。11回目になる今年のテーマは「Nearest Faraway 世界の深さのはかり方」。 30代を中心に、6人の作家が参加した。
最初の展示室にあるのは冨井大裕の作品。壁にびっしりと画鋲が指してあるだけ、とか、板に開けた穴にスーパーボールが載せてあるだけ、といった作品が並ぶ。「なぜ画鋲は金色をしていて、あのように指すのか。作品を作るという行為を通じて、モノの新たな使用法を探しているのかもしれない」と作家は言う。
高い天井にある窓から自然光が入る展示室には木藤純子のインスタレーションが設置されている。ゆらゆらと移り変わる光を感じていると、何かがひらひらと落ちてくる。窓にはそこにはないはずの木立の影が映る。「不確かなものも含めて作品だと思っています。直接、空が見えるわけではないけれど、見えない分、感じてしまうこともあるのでは」
空気の流れか、音が画面に閉じこめられているような関根直子の作品は鉛筆で丹念に描いたもの。ある一点に立つと、作家が作業している音が聞こえてくるポイントも。ときどきその鉛筆の音が止まるのは、作家が絵を見ている時間なのだという。作家が描いている時間と見ている時間、そうしてできあがった絵を観客が見ている時間。鉛筆で塗りこめられた画面に、それらの時間が流れては消える。
池内晶子は細い絹糸を結んで、空中にぽっかりと穴が開いて見える繊細な作品を作った。アトリエで約1年かけて結び、運んできたのだという。全体は東西南北(磁北)を結ぶ軸と壁との4つの交点だけで支えられている。その軸と壁とは3度強、ズレていて、作品と外部とはそのズレによってつながっているのだという。
高さ6メートル以上もある紙や丸めた布、54枚のタブロー、300枚の紙を重ねたもの。これらを埋め尽くすのはボールペンによる線だ。謎めいたスリットや隙間が見る人を誘う。作者の椛田ちひろは「絵の向こうにあるものを見たい、つかみたい、けれどできない。それを描く行為によって実現したい」という。その言葉を聞いたあとも、つやつやと光る漆黒の奥にある入れそうで入れない、めくれそうでめくれないスリットは理解不能な笑みを投げ掛けているようだ。
音楽にまつわるものをモチーフにする八木良太は、カセットテープからテープを引き出して作った球体をインスタレーション。会場には専用のプレイヤーがあり、そこに球体を置くと音が出る。テープが長ければ長いほど、つまり録音時間が長いほど、球体は大きくなる。「時間を実際につかむことができる」と作家は言う。「持ってみると時間は意外と軽い、ということもわかります」(笑)。
作品によっては一見、ささやかに見えるものもあるかもしれない。が、手をかけ、時間をかけて作られた作品はどれも骨太だ。あっさりと通り過ぎることのできない強力な磁場が美術館のフロアを満たしている。
text:Naoko Aono
MOTアニュアル2011 Nearest Faraway|世界の深さのはかり方
開催中〜5月8日
東京都現代美術館
東京都江東区三好4−1−1
tel. 03-5245-4111
10:00〜18:00
月休(3月21日は開館、22日休館)
一般1,000円
木藤純子 《Soraminoma》 2010 カッティングシート、ガラス、水、紙、ほか 写真 提供:富山県立近代美術館 [参考図版]
池内晶子 《Knotted Thread-Red》 2009 絹糸 撮影:橋本舞 [参考図版]
冨井大裕 《ball sheet ball》 2006 アルミ板、スーパーボール 撮影:柳場大