11 7/05 UPDATE
隅々まで計算されているのだけれど、そうは感じさせない。日本の若手アーティストの中でも、国内外から大きな注目を集めている名和晃平の個展は、緻密な空間構成の中に見る快楽が詰まっている。
会場は美術館の地下2階のフロアをぐるりと一周できる構成だ。最初に観客を出迎えるのはグルーガンで壁に描いた網のようなドローイング「Catalyst」。タイトルには化学変化を引き起こす「触媒」の意味もある。物質やアートによって身体の中の感覚が変容するのを感じてほしい、そんな意図も含まれている。
次の展示室にある「PRISM」と「BEADS」のシリーズは、インターネットのオークションサイトなどで収拾したさまざまなものをプリズムシートやガラスビーズで覆ったもの。モニタの中でしか存在しなかった虚像が名和の手元に届けられることで実像となり、それをガラスビーズやプリズムシートといったピクセル(画素)で覆うことでまた、モニタの中の虚像に戻ってしまう。「僕たちがものを見るという体験とはどんなものか、を問いたい」と名和は言う。
会場を進んで行くと、色の着いた照明で照らされたエリアがあるけれど、照明の色=見えている色ではない。ピンクに見えるところは実は無色の照明があたっていて、目の錯覚によって周囲の青っぽい照明の補色を感じているだけだ。最初、緑色に見えた展示室を次の展示室から振り返ると黄色に見えたりする。この個展では展示室ごとにゾーンが分かれているけれど、こんなふうに融合してもいる。
作品の中には人物像やシカのはく製など、似たものを二つ重ね合わせたオブジェがある。シカは生き物なのだから一つ一つ形は違うはずだし、はく製師がどのようなポーズをつけるかも違ってくるはずだ。が、実際には、最近のはく製はアメリカで作られた型があり、それに皮を貼っているだけなのだそう。生物であったはずのシカの皮がフォーマット化、情報化されている。人物像はモデルを3次元スキャンしてポリゴンデータを作成、解像度を少しだけ落としたものと、より低解像度にしたものとを組み合わせた。「情報と身体とが乖離している、あるいは常に情報に接していないと不安、という現代人の心情を表している」と名和は言う。
このあとも展示は続き、最後に入り口に戻ってくる。が、見ているのがどうにも気持ちよくて、もう一周したくなってしまう。ぐるぐると抜けられないループにはまっていつの間にか時間がたっている、不思議な展覧会だ。
text:Naoko Aono
「名和晃平 − シンセシス」展
開催中〜8月28日
東京都現代美術館
東京都江東区三好4−1−1
tel: 03−5777−8600
10時〜18時
月休(7月18日、8月15日、22日は開館、7月19日は閉館)
入場料 1,100円
http://www.mot-art-museum.jp/koheinawa/<
《PixCell-Double Deer#4》2010, Courtesy of SCAI THE BATHHOUSE, 撮影:表恒匡 (SANDWICH)
《Dot Movie》2009, Courtesy of SCAI THE BATHHOUSE and Gallery Nomart
《VIA-Wall》豊洲フロントパブリックアート,東京, 2010, Courtesy of SCAI THE BATHHOUSE and TOSHIO SHIMIZU ART OFFICE, 撮影:甲斐裕司