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Inner Voices - 内なる声

Inner Voices - 内なる声

混とんのアジアを見通す女性アーティストたち。

11 9/08 UPDATE

数千年の歴史を誇る国もあれば、ヨーロッパ諸国の文化が入り込んだ国もあるアジア・オーストラリアの諸国。急激に進む近代化、経済発展によってさまざまなひずみが生じているところも。宗教も仏教、イスラム教、キリスト教、ヒンズー教、その他土着の宗教が入り乱れる。「Inner Voices - 内なる声」に登場するアーティストの作品を見ていると、その混とんとした状況とエネルギーとが伝わってくる。

マレーシアのイー・イランは伝統的なバティック(染め)の技法による布と写真などをコラージュした作品を展示している。対照的な新旧の素材で表現されているのは、海の中の小さな島にしがみつくようにしている人間の姿。島は経済的な拠点の象徴でもある、とアーティストは言う。小さな島には多すぎる人が振り落とされまいとしているように見える様子は、グローバリゼーションという大海に投げ出された人々の不安な気持ちを表しているようにも感じられる。

フィリピンで生まれ、現在オーストラリアで活動するメリッサ・ラモスは故国のマニラでアーティスト・イン・レジデンスを行った際に制作した映像作品を見せる。彼女の作品は心の内面と現実とを行き来する旅のような映像だ。さまざまな人にインタビューして制作した脚本が、老婦人のモノローグでつづられる。インタビューに答えた人は現実のことを語っているのだけれど、記憶から取り出された物語にはその人なりのフィルターがかかっていたり、事実とはほんの少し違っていたりする。「私の作品は見てもらって完成する」というラモス。静かな映像に引き込まれていくうちに観客が自分のストーリーを思い出したりすることで、ラモスの作品はより重層的なものになっていく。

巨大な白いドレスの表面に張り巡らされたチューブの中を、赤い液体が少しずつ流れていく。作者の塩田千春は「血液の壁のような感じ」だと表現する。ベルリンを拠点に世界中を移動する生活を続けている塩田は、ベルリンやエルサレムの「壁」を意識してこの作品を作った。絡み合うチューブに包まれてしまったようなドレスは「民族、国家、宗教、そういった古くて新しい問題にがんじがらめになってしまった状態」を象徴するものでもあるのだという。でもその血液は、自分の体から出たものでもある。自らのアイデンティティを追い求めるあまりに、帰属するものにからめとられてしまう。そんな矛盾した状況も感じさせる。

展覧会にはアジア・オーストラリア出身の女性アーティスト、全9名が参加している。ともすれば今もまだ、女性は社会の周縁に追いやられることが多いけれど、彼女たちはその分だけクリアに時代を見つめている。さまざまな形でアジア・オーストラリアが抱える文化の深さ、豊かさを見せてくれる。

text:Naoko Aono

『Inner Voices - 内なる声』
開催中~11月6日
金沢21世紀美術館
(石川県金沢市広坂1−2−1)
tel: 076-220-2800
10時~18時(金・土~20時)
月休(9月19日、10月10日は開場、翌日休)
入場料 一般1,000円
http://www.kanazawa21.jp/

1イー・イラン
《Map, Sulu Stories》 2005
森美術館蔵
Courtesy of the Artist and VALENTINE WILLIE FINE ART

2塩田千春《Wall》 2010
(video still)
Courtesy of KENJI TAKI GALLERY