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はるか空の高みから、自分がちょこちょこ動いているのを見下ろしているような感じ。遠い星の彼方へ意識だけが飛んでいくような奇妙な感覚。地上の光景を写しているはずなのに、違う星の上のできごとのよう。野口里佳の写真を見ていると、こんな気持ちにとらわれることがある。
それは顕微鏡で細胞を観察するのにもちょっと似ている。薄くスライスした植物の細胞の中にいろんなものがうごめいていて、そのどこか、あるいは全体に生命が宿っているという意識。野口の写真に写り込む人や虫は生命のさまざまなスケールを想起させる。
光のとらえ方も独特だ。光源である太陽、被写体に反射する光、空気や水で拡散する光、そのどれもが野口でなければできない方法でカメラのレンズを通過し、プリントに定着する。写真家であれば誰もが光を意識するけれど、野口の感性はひときわ鋭敏だ。生き物のようにするすると移り変わっていく光の動きにぴったりとよりそう。
野口はタイトルも慎重に考えるという。これまで「果たして月へ行けたか?」「飛ぶ夢を見た」「フジヤマ」などのシリーズを発表している。数枚が組になったシリーズはそれぞれ完結しているけれど、別のシリーズでも何かの要素でゆるやかにつながっているように感じられることもある。
ミクロとマクロ、水や光や空気のさまざまな相、そんなものの間をゆらゆらと行き来する野口里佳の写真。彼女が何か新しいものを撮るたびに、見たことのない光に吸い寄せられるように、そのあとを追いかけて行きたくなる。
text:Naoko Aono
『野口里佳|光は未来に届く』
開催中~2012年3月4日
IZU PHOTO MUSEUM
静岡県長泉町東野クレマチスの丘(スルガ平)347−1
tel. 055-989-8780
10~18時(10・2・3月は~17時、11月~1月は~16時30分)
水曜休(祝日の場合は翌日休)、12月26日~1月5日休
入館料 800円
http://www.izuphoto-museum.jp/
《フジヤマ #17》1997年
《人と鳥》2010年