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ヴァレリオ・オルジャティ展

ヴァレリオ・オルジャティ展

静謐な哲学から建築を生み出す、
オルジャティの頭の中を散策する。

11 11/29 UPDATE

ヴァレリオ・オルジャティは1958年スイス生まれ、ペーター・ズントーの次の世代を代表する建築家だ。東京で開かれている個展はチューリヒやロンドン、ポルトを巡回してきたもの。この東京展が最後の会場になる。

彼は多作とはいえないが、極めて完成度の高い建築を作っている。その背後にあるのは独特の幾何学だ。円や正方形などのシンプルな形態が、コンクリートや木といったこれもまたシンプルな素材によって現される。しかしその形はときに、不思議なずれを見せる。少しだけ傾いた柱、フロアごとにずれていく柱、斜めに切り取られた屋根。それは自然のものに見られる有機的な不規則さとは違う、哲学や詩的なものの存在を感じさせる形だ。

会場には模型と彼の作品写真を映し出すモニタ、そしてオルジャティが「図像学的自伝」と呼ぶ図版が展示されている。模型はすべて33分の1、色は真っ白だ。この大きさと色が、建物に入る光や空間の構造をもっとも的確に伝えることができる、とオルジャティは言う。作品写真はモニタに現れては消えていく。そのモニタは足下の床に水平に置かれていて、模型は目の高さにあるから、模型とモニタの作品写真を同時に見ることは難しい。
「観客の頭の中でそれらの要素を結びつけることで、観客自身に作品を再構築してほしいと考えた」とオルジャティは言う。それは「私の建築はすべて私の頭の中で作り上げられていて、自分では模型やスケッチを作らない」という彼の方法論にも関係している。

モニタの脇には同じく、足下の床に水平に「図像学的自伝」が展示されている。古代の建築や絵画、庭園、インドのミニアチュールと呼ばれる細密画などが並ぶ。日本の建築家、篠原一男の住宅作品や、釘を使わずに木材を組み合わせる「腰掛蟻継」と呼ばれる日本の大工仕事の写真もある。それらは彼にとってとても重要なイメージであり、互いに関連しているのだともいう。

白い模型と、床に置かれたモニタやイメージ。その間を縫って歩いていくと、オルジャティの頭の中のミュージアムを歩いているような気分にもなれる。静謐な哲学を感じさせる建築がどのようにして生まれるのか、その一端をかいま見ることができる展覧会だ。

text:Naoko Aono

『ヴァレリオ・オルジャティ展』
開催中~2012年1月15日

東京国立近代美術館
東京都千代田区北の丸公園3−1
tel: 03-5777-8600(ハローダイヤル)
10時〜17時(金曜は~20時)
月曜休館(2012年1月2日・9日は開館)、
12月28日~1月1日、1月10日休館
入場料420円
http://www.momat.go.jp/Honkan/Valerio_Olgiati.html

1ペルミ21世紀美術館 ペルミ/ロシア 2008 
Perm Museum XXI, Perm, Russia 2008 
Rendering: © Total Real AG

2カウマ湖のプロジェクト フリムス/スイス 1997
The Lake Cauma Project, Flims, Switzerland 1997
Rendering: © Meyer Dudesek Architekten