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2002年、デビュー作となる写真集『うたたね』『花火』で木村伊兵衛写真賞を受賞した川内倫子。それから10年、海外でも作品を発表するなど活躍の場を広げている彼女の個展が開かれている。映像を含めて約80点、彼女が約15年にわたって取り組んでいる6×6cmのフォーマットによる「Illuminance」と、新作の「あめつち」「影を見る」のシリーズだ。
写真集ではいつもじっくりと練られた構成を見せてくれる川内倫子は、展覧会という空間でもその構成の妙を見せてくれる。展示室に入って観客が最初に通るのは、床も壁も真っ白な細長いスペース。その両側に昨年刊行された写真集「Illuminance」からの作品が並ぶ。ここでは見開きに並ぶ2枚の写真がそれぞれ、向かい合わせになるように展示された。
「静かな空間に向かい合った写真がエネルギーを照射しあっている感じ。実際にこの場に立ってみると、写真に見られているような気もした」と川内は言う。
その次のスペースでは2面のプロジェクターで映像が投影されている。同じ映像を、時間をずらして投影する。映像のズレは意図的なものではないので、どの画面が隣どうしになって出てくるかはわからない。
「一つずつに集中してみてもいいし、ふと横を見ると意外な組み合わせの画面が見えたりする。自分でコントロールできないおもしろさを感じます」
新作の「あめつち」は4×5という大判カメラによる、阿蘇の野焼きやイスラエルの嘆きの壁などのプリントと映像作品。4×5は川内が愛用してきた6×6や、35ミリよりも手間がかかる。
「どちらかというと使いづらいカメラです。でもこれは難しい被写体だし、広大で重みもある。だから儀式のような作業を経ることで、自分なりのリスペクトをもって撮りたかった」
川内は阿蘇の野焼きを見て初めて、自分が地球に立っている、ということを感じたのだという。
「いろんなことの起源を見たい、ものごとの始まりについて考えたい。それに、自分がこの地に住んでいる、ということを考えたかった。それでずっと写真を撮ってきたのですが、阿蘇にきて初めて自分が地球の上に立っている、ということを実感したんです。『星の王子さま』の挿絵にある、星の上に立っている王子さまの絵みたいに」
「影を見る」というもう一つの映像作品は、イギリスのブライトンで撮影したもの。やや暗い海の上を集団で飛ぶ鳥の様子が淡々ととらえられている。タイトルの「影を見る」は、鏡の古語である「影見(かげみ)」という言葉から生まれたものだ。
「写真は自分たちの社会や、いろんなものを照らし合わせる鏡のようなものだと思う。鳥の群れ自体が影のように見えた、という理由もあります」
この映像が投影されている壁の前の床の、発光する箱の上に置かれた写真は宮崎県の銀鏡(しろみ)神社で年に1度、行われる夜神楽を長時間露光で撮ったものだ。
「舞っている人が懸命に光を出して、神に捧げているような感じを受けた。床に置かれた箱は棺桶のようにも見える。そんな死のイメージと、生を象徴する光とが混在しているんです」
光は生のイメージであり、人間は光がないと生きていけない。光に向かっていくのは本能だとも言える。「最近ますます光に向かっている」という川内はそのことについて、「無意識にサバイブしようとしているのではないか」とも言う。混とんとした世を照らす光を思わせる写真が並ぶ展覧会が、これまでの川内倫子の世界と、これからを暗示する。
text: Naoko Aono
「川内倫子展 照度 あめつち 影を見る」
開催中~7月16日
東京都写真美術館
東京都目黒区三田1-13-3
恵比寿ガーデンプレイス内
tel: 03-3280-0099
10時~18時(木・金~20時)
月休(7月16日は開館)
一般700円
無題 シリーズ《Illuminance》より 2009年
無題 シリーズ《Illuminance》より 2007年
無題 シリーズ《あめつち》より 2012年