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スタジオ・ムンバイはインドの建築家、ビジョイ・ジェインが率いる建築事務所。彼らのやり方は少し変わっている。ジェインのほか、大工、石工、鉄工、井戸掘り工らが設計からかかわり、実際に建てるところまでやってしまうのだ。建築事務所はどんなデザインにするかを決めるだけで、施工は工務店や職人に任せてしまうことが多いのだが、スタジオ・ムンバイでは職人たちと一体になって仕事を進めている。
職人たちの多くは高等教育を受けていない。が、何代と続く職人の家系に育った、生まれながらの熟練技術者ばかりだ。彼らとは模型のほうがコミュニケーションがとりやすいから、スタジオ・ムンバイでは大量の模型を作ってデザインを検討していく。素材やサイズ、形を身体で確かめながら建築を作っていく、彼ら独特の方法論だ。
またスタジオ・ムンバイはインドの集落や移動住居を調査、無名の人々の暮らしの中で磨き上げられてきた「住むためのスキル」も研究している。こうしてできあがった建築は地下に階段井戸がある住宅など、インドの酷暑や大雨でも快適に過ごせる建物だ。素材の特質を知り尽くした職人たちが手がけているから、時を経ても味わいのある美が残る。
TOTOギャラリー・間で開かれる展覧会には建築の写真などの他に、インドの事務所で実際に使われている素材や模型、スケッチなどで彼らのワーキングスペースを再構築する。来場者も彼らの方法論を身体で感じることができる。
8月26日からは東京国立近代美術館の前庭で、インドからやってきた職人たちが実際に、「夏の家」と名付けられたポエティックな構造物をつくる。インドで鳥を呼ぶのに使われる網のようなものや日本のバラックがデザインのヒントになった。3つの小屋のそこここに景色が楽しめる場所や向かい合ったベンチとブランコなど、楽しい使い方ができそうな空間が組み合わされている。この「夏の家」は施工風景が公開されたあと、完成後は休憩するなどくつろげるスペースになる。9月いっぱいはクラフトビールやヴィーガンフードなどが楽しめるカフェとして期間限定営業。彼らのデザインした建物を心ゆくまで楽しめる。
身体との関わりを手で確かめながら作っていく建築。先進諸国(と自分たちが考えている国々)では珍しいものになってしまったやり方が、震災や経済危機など、複雑な転換点を抱える日本で何かの突破口になってくれるはずだ。
text:Naoko Aono
『スタジオ・ムンバイ展 PRAXIS』
2012年7月12日〜9月22日
TOTOギャラリー・間
東京都港区南青山1−24−3 TOTO乃木坂ビル3F
tel. 03-3402-1010
11時〜18時(金〜19時)
日・月・祝、8月12日〜20日休(9月22日は開館)
http://www.toto.co.jp/gallerma/
『夏の家』
2012年8月26日〜2013年1月14日
(8月26日〜31日は施工風景の公開)
東京国立近代美術館
東京都千代田区北の丸公園3−1
tel. 03-5777-8600(ハローダイヤル)
11時〜17時(9月8日までは〜21時)
9月8日まで無休、9月11日〜10月13日は日・月休、
10月16日〜2013年1月14日は月休(12月24日、1月14日は開館)
9月9日・10日、10月14日・15日、12月28日〜2013年1月1日休
カフェとして営業する日時については下記HPにて。
http://www.momat.go.jp/momat60/studiomumbai
Utsav House(Satirje, Maharashtra, India/2008)ⒸHélène Binet
スタジオ・ムンバイ 「夏の家」模型
Bird Tree (インド、ラージャスターン州) Photo: Mitul Desai
鳥を呼ぶために使われる道具。「夏の家」のヒントになった。