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高嶺格のクールジャパン

高嶺格のクールジャパン

“クールジャパン”って本当にクール?
もやもやした疑問をえぐり出すインスタレーション。

13 1/09 UPDATE

東日本大震災とそれに続く原発事故とで、それまでみんなが見てみないふりをしてきたいろいろな問題が一気に噴出してきた感がある。どれもすぐには答えが見つからず、とまどい、怒り出したい気分にさえなる。そんな状況をアートにした勇気ある作家が高嶺格だ。

展覧会のタイトルは「高嶺格のクールジャパン」。といっても外国のオタクに受けそうなアニメ絵が並んでいるわけではない。たとえば「敗訴の部屋」というインスタレーションは、反原発運動に対する判決を報じた新聞記事の見出しを拡大したもの。その名称の通り、原告敗訴の判決ばかりが並ぶ。実際にこういった裁判では大半が敗訴で、勝訴の判決は極めて少ないのだそうだ。作者の高嶺もこの作品を作るために調べて、この事実に改めて驚いたという。それまでなんとなく感じていた違和感を目に見える形でつきつけられた感じだ。

「ガマンの部屋」では男性、女性、さまざまな人の「我慢しなさい」という声が聞こえてくる。震災時の被災地では極限状態の中、整然と行動する人々の我慢強さが海外からも称賛された。その一方でときに、多くの人々に関わりのある問題であるにもかかわらず、誰かが我慢すればことは丸くおさまるとばかりに、一部の人に"ガマン"が押し付けられてしまうことがある。ガマンという言葉に美徳と紙一重の社会の歪みが象徴されている。

一番の"問題作"は「ジャパン・シンドロームの部屋」の映像作品かもしれない。これは個展開催地の水戸と関西、原発の建設をめぐって揺れる山口で店舗や釣り人たちに世間話をしながら放射能の危険性やそれに対する不安をさりげなく聞き出し、その会話をもとに構成した短い演劇の映像だ。客として訪れた制作スタッフが「原発とか......、大丈夫なんでしょうか?」と尋ねると「そうねえ、どうなんでしょうねえ」と考え込んでしまう人、「全然大丈夫ですよ」ととりあわない人、「そんなこと心配してどうするの」とアグレッシブな態度を示す人までさまざまな反応が返ってくる。問うほうも、問われるほうもどこかに居心地の悪さを残したまま会話は終わり、次の場面へと暗転していく。

展覧会タイトルに使われた「クールジャパン」という言葉を初めて聞いたとき、高嶺は原発と同じようなうさんくささ、あやしさを感じたという。一方はエネルギー政策でもう一方は文化政策だけれど、どちらも経済産業省の担当なのだ。
「どちらも国民をバカにしているように感じるんですよ。政府と国民との間に距離がありすぎる。ゴリ押しで政策が決まる風潮を変えていかなくてはと思う」
 展覧会がオープンしてどんな反応があるのか怖いとも言う高嶺。この勇気ある問いかけは、アートでなければできないものだ。

text: Naoko Aono

『高嶺格のクールジャパン』
開催中~2月17日まで

水戸芸術館現代美術ギャラリー
茨城県水戸市五軒町1-6-8
9:30〜18:00
月曜休(1月14日、2月11日は開館、1月15日、2月12日休館)
tel: 029-227-8111
http://arttowermito.or.jp/

1「敗訴の部屋」
2「ジャパン・シンドロームの部屋」
3「クールジャパンの部屋」

写真はすべて「高嶺格のクールジャパン」2012-2013年 
水戸芸術館現代美術ギャラリーでの展示風景
撮影:細川葉子
写真提供:水戸芸術館現代美術センター