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正確無比なスキャナーで世界を淡々とスキャニングし、リアルさを加えるためにほんのちょっと操作する。ゲルハルト・リヒターやベルント&ヒラ・ベッヒャーら現代ドイツのアーティストの作品はそんなふうに作られているように思える。前衛的な美術教育で知られるデュッセルドルフ美術アカデミーやベッヒャーのもとで学んだアーティスト、アンドレアス・グルスキーもその系列に連なる作家の一人だ。2011年、写真によるアートとしては史上最高額で作品が落札されたことでも話題になった。その彼の、日本では初めての個展が国立新美術館と大阪の国立国際美術館で開かれる。
展覧会には1980年代の初期作品、アメリカの"100円ショップ"の店内を撮った《99セント》、F1レース中のピットストップでマシンに群がるメカニックを撮影した《F1ピットストップIV》、北朝鮮のアリラン大会を撮った《ピョンヤンI》などの代表作から最新作《カタール》まで、グルスキー自身が厳選した約65点の作品が並ぶ。
グルスキーの作品を読み解く鍵の一つがスケールだ。今回の回顧展では1辺が5メートル以上、観客を飲み込むほどの巨大なものから、脳内のプロジェクターに映っているかに思える小さなものまでが混在して展示される。ニュートリノの観測装置を撮影した《カミオカンデ》のように被写体のサイズがわかりにくいものだと、ますますスケール感覚が撹乱される。人間が写っているものでも、ときにデジタル加工によって大量に集合させられた人々がひとつの塊のように見えて、個と集団の感覚がわからなくなってくる。
日々、あふれるほど流れてくるメディアからの情報がグルスキーのインスピレーション・ソースだ。が、タイのチャオ・プラヤ川を写した「バンコク」シリーズは彼が実際に見た川の流れから着想された。ただしここでも川を流れる廃棄物が自然環境を汚染していく様子が淡々と映し出される。人間や、人間が作り出したモノの集積によって社会システムやグローバリゼーションを暗示してきた彼の新しい境地だ。
グルスキーの転機の一つが1990年、日本で撮影した《東京証券取引所》だという。証券マンたちがひしめき合う立会場の様子をとらえたものだ。白シャツか黒いスーツに身を固めた男たちの間には「手サイン」と呼ばれる株取引のための身振り、手振りによるサインが飛び交い、部外者にはわからないところで巨大な金額が動いていく。今はコンピュータ化されて見られないこの光景に、グルスキーが捉える世界のビジョンがある。
text: Naoko Aono
アンドレアス・グルスキー展
7月3日〜9月16日
国立新美術館(東京都港区六本木7−22−2)
tel: 03-5777-8600(ハローダイヤル)
10:00〜18:00(金〜20:00、入場は閉館30分前まで)火曜休
入場料1,500円
http://gursky.jp/
※2014年2月1日〜5月11日、大阪・国立国際美術館へ巡回。
《99 セント》1999年。タイプCプリント、207×325cm×6.2cm
《ピョンヤン Ⅰ》2007年。タイプCプリント、307×215.5cm×6.2cm
(クレジット)
© ANDREAS GURSKY / JASPAR, 2013
Courtesy SPRÜTH MAGERS BERLIN LONDON
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