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ル・コルビュジエの「ラ・トゥーレットの修道院」は今も現役の修道院として使われているが、一部がホテルとして開放されていて宿泊もできる。細長い客室は僧坊として作られたもので、シングルベッドが一つと棚が一つあるだけの簡素な造りだ。一方、プラハで元チェコ(チェコスロヴァキア)大統領、ヴァーツラフ・ハヴェルも収監されたという刑務所を改修したホテルに泊まったことがある。こちらは2段ベッドが入っていたけれど部屋自体はシングルベッドが一つ入るだけでほぼ一杯になりそうな、細長い部屋だった。どちらも片廊下に沿って部屋が並び、各室の奥のほうに窓が付けられている。修道院と刑務所の個室はビルディングタイプとしては似たようなものになるらしい。
奈良原一高の「王国」は北海道の男子修道院と和歌山の女性刑務所を撮ったシリーズ。1958年の発表当時、彼は20代後半、その2年前に個展「人間の土地」でデビューしたばかりだった。修道院を「沈黙の園」、刑務所を「壁の中」として発表されたこのシリーズは20代の若手写真家のものとは思えないすごみと深みに満ちている。
修道院も刑務所も俗世から隔絶され、孤独に生活することを求められる空間だ。奈良原が撮影した修道院では厳しい戒律のもと、僧たちにはよけいなおしゃべりは許されず、祈りや食事の用意など、日々決まった務めに励む。刑務所でも食事や工場での労働、就寝時間は決められていて、受刑者は毎日その通りに行動させられる。その場所に至るまでには自ら望んで入ったか、法によって強制されたかという大きな違いはあるけれど、内部では奇妙に似た光景が繰り広げられるのだ。
タイトルの「王国」はアルベール・カミュの中編小説集『追放と王国』からとられた。奈良原は発表時、その中の「ヨナ」という一篇から次のような一節を引用している。
「その中央にヨナは実に細かい文字で、やっと判読できる一語を書き残していた。が、その言葉はSolitaire(孤独)と読んだらいいのか、Solidaire(連帯)と読んだらいいのか、わからなかった。」
もし修道院や刑務所が"王国"だとしたら、王はどこにいるのだろう。キリスト教の神か、あるいは法が王なのか。いずれにしてもそれは見ることのできない王だ。極限の状況にある人々の姿をとらえた奈良原の写真は生きることとは何か、という本質的な問いをつきつける。
text: Naoko Aono
奈良原一高「王国」
開催中〜2015年3月1日
東京国立近代美術館
東京都千代田区北の丸公園3−1
tel. 03-5777-8600(ハローダイヤル)
10時〜17時(金〜20時)
月曜(1月12日を除く)、12月28日~1月1日、1月13日休
http://www.momat.go.jp
奈良原一高《「王国」より沈黙の園》
奈良原一高《「王国」より沈黙の園》
奈良原一高《「王国」より壁の中》
奈良原一高《「王国」より沈黙の園》
©Narahara Ikko Archives