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色彩の洪水で鮮烈な印象を残したデビューから20年。蜷川実花は「さくらん」などの映画やミュージックビデオ、ファッションデザイナーとのコラボレーションなどでも独自の世界を展開している。彼女は華やかで艶やかな色が乱舞する作品の一方で、闇や死を感じさせるものも作ってきた。「Self-image」というタイトルの個展はそんな影の部分に光をあてる展覧会だ。
もと邸宅だった美術館の玄関から入った最初の展示室では新作映像のインスタレーションが設置される。金魚と人の雑踏を撮った映像を組み合わせたものだ。観賞のためだけに人為的に作り出された金魚は人の欲望の象徴のような存在だ、と蜷川は言う。人間と自然との、ある意味でねじれた関係性を思い起こさせる。
1階の大きな展示室に並ぶ「noir」のシリーズは、同名の写真集を発表した後も蜷川が撮り続けているもの。花や食べ物などごくありふれた、日常生活でいつも目にするものが並ぶ。でもそれらはすべて、かつて生命があった、またはその生命の灯が消えつつあるものたちだ。もちろんそんなことをいちいち考えていたら私たちは社会生活を送ることができない。生きること、暮らしていくことの裏側に潜む残酷さがほんの少しだけ、顔をのぞかせる。
個展のタイトルにもなっている「Self-image」と題されたセルフポートレイトのシリーズは2階の小部屋に展示される。蜷川はデビュー当時から断続的にセルフポートレイトを撮り続けてきた。あまり発表されることのなかったそれらの写真をこの個展で見せようと思ったのは、カメラ1台で撮る自らの原点に戻ろうと思ったからだという。他に誰もいないところで自らを撮る彼女のセルフポートレイトは、多くの人とのチームワークで作っていく映画やミュージックビデオとはまったく違うプロセスで生まれるものだ。デビュー20年という節目でスタートを見つめ直す機会を持てるのは幸せだ、と彼女は言う。一見甘い世界に惑わされてしまうけれど、この人はやはり意志の人なのだと思い知らされる。
これまでたくさんの写真集を出版し、2008年にも大規模な回顧展を開催した蜷川実花。影や闇にフォーカスしたこの個展がこれから先、まだまだ遠くへと走っていくはずの彼女のターニングポイントになるのは間違いない。
text: Naoko Aono
「蜷川実花:Self-image」
会期:2015年1月24日〜5月10日
会場:原美術館
東京都品川区北品川4−7−25
tel. 03-3445-0651
11時〜17時(水〜20時/いずれも最終入館は閉館30分前まで)
月曜、5月7日休(5月4日は開館)
料金:一般1,100円
http://www.haramuseum.or.jp
「Self-image」2013
©mika ninagawa, Courtesy of Tomio Koyama Gallery
「無題」2015
©mika ninagawa, Courtesy of Tomio Koyama Gallery
「noir」2010
©mika ninagawa, Courtesy of Tomio Koyama Gallery