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半世紀以上にわたって絵画の本質を追求し続けてきたゲルハルト・リヒター。写真をもとにしたペインティング、写真の上に油彩やエナメルで抽象的なパターンを描き出す「オーバー・ペインテッド・フォト」、グレイ一色で塗られた「グレイ・ペインティング」、最新のデジタル技術で細かいストライプを表現する「Strip」など、さまざまな手法を駆使して制作を続けている。ワコウ・ワークス・オブ・アートで開かれている3年ぶりの個展は作者自らが「Painting」、絵画と名付けた。世界初公開となる最新の油彩画が並ぶ。
会場に並ぶ「アブストラクト・ペインティング」と名付けられたシリーズはいずれもここ1、2年の間に制作されたもの。長いスキージと呼ばれるヘラで画面の上の絵の具を擦って色の層を重ね、削り取ることで作られる。絵の具が盛り上がって凹凸ができた画面には色相も明暗もさまざまな色が浮かび上がる。
この「アブストラクト・ペインティング」はリヒターが長年手がけている、彼の代表作ともいえるシリーズだ。リヒターはここ数年、「Strip」シリーズやガラスの立体作品など、「仮象(Schein=シャイン、光)を生み出すような作品を手がけている。注目されるその次の展開として発表されたのが「アブストラクト・ペインティング」シリーズの新作だった。手法は以前と同じとはいえ、即興性が生み出す画面はより重厚なものになっている。平面というよりはオブジェのような迫力だ。
今回の個展ではガラスにラッカーで描いた「アラジン」シリーズや、「オーバー・ペインテッド・フォト」作品も出品される。使われた写真の中には日本の瀬戸内海で撮影されたものもある。この瀬戸内海に浮かぶ豊島(とよしま)という島には2016年春、初のパーマネント・スペースがオープンする。海を望む展示空間に最新作の「14枚のガラス」が恒久設置される。半世紀近く制作を続けてきたガラスの立体作品の最後となるこの作品は8メートルにもなる大作だ。スリットから光が入る展示空間もリヒターがデザインした。光をテーマとするこの作品はきらめく海とまぶしい陽光の下で、ホワイトキューブとは違う顔を見せてくれるだろう。その日を楽しみにしながら、東京での個展を味わいたい。
text: Naoko Aono
ゲルハルト・リヒター「Painting」
会期:開催中~2015年12月19日
会場:ワコウ・ワークス・オブ・アート
東京都港区六本木6-6-9 ピラミデビル3F
tel: 03-6447-1820
11:00~19:00、日月祝休
入場無料
http://www.wako-art.jp
Abstract Painting (939-6)
2015, oil on canvas, 58 x 72 cm
©Gerhard Richter, courtesy of WAKO WORKS OF ART