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1975年フランス生まれのシャルル・フレジェが撮っているのは"異形のコスチューム"をまとった人々だ。「EMPIRE」シリーズはヨーロッパ16カ国で宮殿などを守る騎兵隊を撮影したもの。「獣人」(ワイルドマン)を収めた写真集「WILDER MANN 欧州の獣人- 仮装する幻視の名残」は日本でも発行されて話題になった。ヨーロッパ各地の伝統的な祝祭に登場する熊や山羊、悪魔や擬人的なキャラクターに仮装した人々だ。日本でも力士や、成人式に出席する振り袖姿の女性たちを撮影している。
2月にメゾンエルメス フォーラムで発表される「YÔKAÏNOSHIMA」は日本列島各地を取材して制作したもの。古くから伝わる奇妙な神々や鬼の姿を紹介する。秋田のなまはげは説明不要だろう。「オネオンデ」は長崎県五島市旧富江町地域に江戸時代から伝わる踊り。鉦に合わせて蒲の葉の腰蓑と色鮮やかな衣裳をまとった子供たちが、首にかけた太鼓を鳴らしながら踊る。当初は豊作を祈るものだったが、今では初盆を迎えた人の墓前で亡くなった人たちのために踊る。
「鷺舞」はフレジェも撮影した島根県津和野市のものがとくに有名だ。桐や檜で作られた鷺の頭や羽根をまとい、舞いを奉納する。七夕伝説で牽牛と織姫のために鵲(かささぎ)が橋を架けたという伝説に基づくものだ(鵲と鷺が混同された)。そのほか、全部58カ所で撮影した写真が展示される。神秘的な自然などの異界の様相を垣間見せる鬼や仮面神のさまざまな出で立ちがとらえられている。
フレジェが撮っているのは理性ではなく本能、ケ(日常)よりもハレ(非日常)に近い。21世紀になって科学技術も産業も、政治体制も充分に近代化したと思っていても割り切れないもの、わからないものへの畏敬の念はどこかに残っている。またそういったものになりたい、出会いたいという欲望も消えることはない。フレジェの写真には私たちが見慣れた民俗学の記録とは少し違う、透明感のある色彩が漂って、この不思議なコスチュームをまとって踊ったり歌ったりする人々が確かに今の時代に息づいていることを実感させてくれる。忘れかけている何かが甦ってきそうな気持ちにとらわれる。
text: Naoko Aono
『YÔKAÏNOSHIMA』
会期:2016年2月19日〜5月15日
会場:銀座メゾンエルメス フォーラム
東京都中央区銀座5-4-1
tel: 03-3569-3300
11:00〜20:00
※ 日曜〜19:00
※ 最終入場は閉場30分前まで
※4月2日休館
入場無料
"Namahage"
Ashizawa, Oga, Akita prefecture (Japan), YÔKAÏNOSHIMA series, 2013-2015
"Sagi"
Tsuwano, Shimane prefecture (Japan), YÔKAÏNOSHIMA series, 2013-2015
"Babugeri"
Bansko(Blugaria), WILDER MANN series, 2010-2011
"Black Watch"
EMPIRE series, 2004-2007
©Charles Fréger