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2010年、40歳の若さで突然この世を去った天才、アレキサンダー・マックイーン。2011年にはニューヨークのメトロポリタン美術館で大回顧展が開かれ、大きな話題になった。その展覧会がパワーアップしてマックイーンの拠点だったロンドンにある、ヴィクトリア・アンド・アルバート・ミュージアム（V&A）に巡回する。ヨーロッパ圏では初めての展示だ。

アレキサンダー・マックイーンは1969年、タクシードライバーの父と教師の母のもと、6人兄弟の末っ子として生まれた。セントラル・セント・マーチンズの卒業コレクションがヴォーグのエディター兼スタイリスト、イザベル・ブロウの目にとまり、デビューが決まる。1996年にジバンシィのデザイナーに就任。以後、彼の作品は常に大きなセンセーションを巻き起こした。中国の伝統衣裳や日本の着物にも興味を持ち、ビョークのアルバム『ホモジェニック』のカバーには着物にインスパイアされた作品を提供している。

V&Aではメトロポリタン美術館でも話題になった、セント・マーチンズの卒業制作から最後のコレクションとなった2010年春夏まで、繊細なコレクションピースが展示される。キャットウォークやその写真などではつかみにくい、高度なカッティングワークなどを駆使したディテールに迫ることができる。

展示では音楽はもちろん、映像やパフォーマンスなどとコラボレーションし、コレクションの度に話題になったキャットウォークのエッセンスを表現する。生前の彼とコラボレーションしていたゲインスベリー＆ウィッティングの協力により、常軌を逸した刺激的でドラマチックなショーが甦る。中でも白いドレスをまとったシャローム・ハーローにロボットがペイントを噴射して着色するパフォーマンスは劇的だった。友人だったケイト・モスがドラッグ・スキャンダルにさらされていたときは、オーガンジーのドレスを着た彼女が青白い光になって消えていくというホログラム映像で観客のため息を誘った。

彼は特定のミューズを持たなかったが、そのかわりに歴史上の女性、とくに彼が「悲劇の女性」と呼ぶ女性たちからインスピレーションを得ることがあった。そのうちの一つ、ジャンヌ・ダルクをイメージしたドレスのプレゼンテーションでは、モデルのまわりを燃えさかる火が取り囲む。スタンリー・キューブリックの映画「シャイニング」から着想したコレクションではキャットウォークに吹雪が舞い、雪の結晶のようなドレスをまとったモデルたちが歩く。ショーの最後、降りしきる雨の中をモデルたちが歩く、という演出をしたこともあった。このときマックイーンは「ゴールデン・シャワー」というタイトルをつけたが、性的なものを連想させるとしてスポンサーから拒否されたため、抵抗の意志も込めて「無題」と変更した、というエピソードも残る。

V&A独自の企画として、ジュエラーのショーン・リーンや帽子デザイナーのフィリップ・トレイシーとマックイーンがコラボレーションしたアクセサリーなどを展示する「キャビネット・オブ・キュリオシティ」のコーナーも。ジバンシィのためにデザインしたヘッドピースや、華やかに飾られたマタドール・ジャケットなどが見られる。

光と闇、ワイルドさと洗練された知性、大胆なテイラーリング、ゴシック的な繊細さ。矛盾するさまざまな要素がぶつかりあい、火花を散らす彼のクリエイションはファッションの世界にとどまらない、独特の深みを持つ。不世出の才能の軌跡をじっくりと味わいたい。

text: Naoko Aono