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Le fil rouge

Le fil rouge

3つの都市をつなぐ“赤い糸”。

15 3/23 UPDATE

4月に表参道のエスパス ルイ・ヴィトン東京で「Le fil rouge」という展覧会が開かれる。フランス語で「赤い糸」という意味だ。ロマンチックで古典的な言い伝えを思い出させるタイトルのこの展覧会は同じテーマのもと、ミュンヘン、パリ、東京にある3つのエスパス ルイ・ヴィトンで開かれる。東京での展示に登場するのは4人のアーティスト。それぞれに"糸"が多彩な形で現れる。

1963年エジプト出身のガーダ・アメールの作品は、文字や女性のイメージを描いた絵に刺繍を施すというもの。女性たちは妙になまめかしく、肉感的だ。それもそのはず、彼女たちはポルノ雑誌から引用されたもの。そこに絡みつく糸が、本来そこにあるはずの男性の欲望をぼやかし、当たり前だと思っていたステレオタイプやタブーに切り込みを入れる。

本来ハイアートである絵画と工芸である刺繍をアメールとはまた違う形で組み合わせているのがマイケル・レデッカーだ。家のスケッチのようなものや、豪華なシャンデリア、ベッド、クロスのかかったテーブルなどをモチーフにした画面に、刺繍で独特の質感を付け加える。薄い水色や青緑、淡いピンクなど色調が統一された画面に、盛り上がるように糸が刺繍されている。立体と平面の間の微妙な空隙を進んでいくようなアートだ。

展示空間に降る雨のようにも見えるのはタティアナ・トゥルヴェの作品。おもりのついた糸が吊されているのだが、垂直なものは1本もない。重力に従っているようでそうではない、不思議なインスタレーションだ。空間を区切るはかなげな糸は身体性と精神性の境界をあいまいにする。線という2次元がつくる3次元的な彫刻が"空間のドラマ"を生み出す。

3会場には共通してハンス・オプ・デ・ベークの映像作品「The Thread」が登場する。パペット(操り人形)を使い、アジアの神話に由来する形で"赤い糸"を登場させている。彼のこれまでの作品と同じく、現代社会の矛盾や複雑さ、生と死という根源的な事柄の持つ意味などを問い直す作品だ。

ミュンヘンの会場にはガーダ・アメール、トレイシー・エミン、マイケル・レデッカーが、パリの会場にはイザ・メルスハイマー、フレッド・サンドバック、塩田千春が登場する。3つの会場の作品はそれぞれ、他の会場の作品と呼応し、対話する。それぞれの"赤い糸"が長い距離を超えて、空間やアートをつなぐのだ。

text: Naoko Aono

「Le fil rouge」
会期:2015年4月8日(水)〜5月31日(日)
会場:エスパス ルイ・ヴィトン東京
東京都渋谷区神宮前5-7-5 ルイ・ヴィトン表参道ビル7 階
tel: 03-5766-1094
12時〜20時 会期中無休
入場無料

会場:エスパス ルイ・ヴィトン ミュンヘン
会期:開催中〜2015年4月11日
Maximilianstraße 2a, 80539 München

12 時~19 時(土 10 時~18 時)月曜休
Tel. +49 89 55 89 38 100
入場無料

会場:エスパス ルイ・ヴィトン パリ
会期:開催中〜2015年5月3日
60, rue de Bassano, 75008 Paris

12 時~19 時(日曜/11 時~19 時)会期中無休
Tel. +33153575203
入場無料

1ミュンヘンでの展示風景。
トレイシー・エミン「Waiting for it 」
(2014)
ガーダ・アメール「Encyclopedia of Pleasure」 (2001)
Photo: Christian Kain/Louis Vuitton Courtesy the Artist and Espace Louis Vuitton München
©Tracey Emin. All rights reserved / JASPAR, Tokyo, 2015

2パリでの展示風景。
塩田千春「Infinity」(2015)
©JASPAR, Tokyo, 2015 Photo: Sun-Hi Mang

3ハンス・オプ・デ・ベーク「The Thread」(2015)
Still taken from the video work The Thread
©JASPAR, Tokyo, 2015