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シンプルなかたち展:美はどこからくるのか

シンプルなかたち展:美はどこからくるのか

古今東西のアートと道具に潜む、シンプルの本質。

15 3/31 UPDATE

たとえば「シンプルな暮らし」と言われてみんなが思い浮かべるものにはさまざまなものがあるはずだ。森美術館で開かれる「シンプルなかたち」展は多くの人が心惹かれる"シンプル"な近現代アートやデザイン、さらにシンプルな形態の自然石、古代の石器や民俗芸術などを紹介するもの。フランスのポンピドゥーセンター・メスとエルメス財団が共同企画した展覧会だ。日本に巡回するにあたり、茶道具や仏像など日本独自の出展物が加えられている。

出展物の中でも、比較的古いものに属すると思われるのが作者不詳の《バード・ストーン》だ。鳥の形をした石は頭がやや大きく、素朴な雰囲気を漂わせる。空を自由に飛び回る鳥は、地上でしか暮らすことのできない人間にとって憧れの対象だったに違いない。ブランクーシやブラッサイら、モダン・アーティストたちも鳥を抽象化したオブジェを作っている。

高齢になり、病を得たアンリ・マティスは次第に体力のいる油彩画から切り絵に移行するようになる。「ジャズ」はその切り絵をもとにしたステンシル版画の挿絵本。今回出品される《「ジャズ」9 形態》は女性の体をネガとポジで現したもの。抽象化された二つの体はよく見ると完全に同一ではないけれど、そのことによって画面に緊張感が生まれる。

カールステン・ニコライの巨大な結晶のような作品は内部から低音を発するミステリアスなオブジェ。16世紀ドイツのルネサンス期の画家、アルブレヒト・デューラーの銅版画《メランコリア I》(憂鬱)に登場する幾何学形態を立体化したものだ。デューラーの銅版画には頬杖をついて物憂げに考え込む天使が描かれている。天使はコンパスを手にして何かを作り出そうとしているが、その試みはうまく行っていないようだ。宇宙にはシンプルなルールがあるはずだけれど、どうしてもそれにたどりつけない、そんな苦悩を感じさせる。

日本での展示のために追加されたのは根来塗の盆や禅僧、仙厓の《円相図》、樂焼初代長治郎の《黒樂茶碗》など。余計なものをそぎ落として本質だけを追い求める、そんなストイックな姿勢から生み出されたものには、シンプルだけど奥の深いものが宿っている。

展覧会には古今東西の道具も並ぶ。紀元前22000〜17000年前の薄くとがらせた石器や朝鮮時代の白磁器、シャープなラインが美しいオーストラリアのブーメランなど、どれも機能美が体現されたものばかりだ。使い勝手を想像するうちに、実際に欲しくなってくる。

展示は「形而上学的風景」「宇宙と月」「力学的なかたち」など9つのセクションにわかれていて、それぞれキュレーターが考える"シンプル"なもので構成される。自然のものに潜む美、人々が月に見出したパワーや伝説、数学から生まれた予期しない形。多様な"シンプル"の諸相が楽しめる展覧会だ。

text: Naoko Aono

シンプルなかたち展:美はどこからくるのか
会期:2015年4月25日〜7月5日
会場:森美術館(東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階)
tel. 03-5777-8600(ハローダイヤル)
10時〜22時(火〜17時)
*4/25(土)は「六本木アートナイト2015」開催に伴い翌朝6:00まで
*5/5(火・祝)は22:00まで
会期中無休
入場料(一般)1800円
http://www.mori.art.museum/

1アンリ・マティス《「ジャズ」9 形態》/1947年/ステンシル、紙/40.8 x 57.7 cm
所蔵:神奈川県立近代美術館
2杉本博司/《スペリオル湖、キャスケイド川》/1995年/ゼラチン・シルバー・プリント/119.4 x 149.2 cm
Courtesy: Gallery Koyanagi
3作者不詳/《バード・ストーン》/制作年不明/粘板岩/4.8 x 11.2 x 2.0 cm
アーレンベルグ・コレクション、スイス
4アンソニー・マッコール/《円錐を描く線》/1973年/映像インスタレーション/サイズ可変/展示風景:ロシュシュアール現代美術館、2007年
撮影:Freddy Le Saux
*参考図版