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1990年代初頭、クラブシーンなどユースカルチャーをとらえた写真で注目を集めたドイツ出身の写真家、ヴォルフガング・ティルマンス。それから20数年、彼の作品は少しずつ変貌を遂げてきた。7月に大阪で開かれる個展は、日本の美術館での個展としては11年ぶりのもの。その間に彼が到達した地平を見ることができる。
ティルマンスの写真には友人や街角にいる若者、風景、食べ物など、身近な光景が写し取られている。ベルリンとロンドンを拠点にする彼が目にする光景は、もちろん日本で暮らす私たちが見ているものとは少し違う。でもプライベートな感覚には共通するものがあるから、彼の写真は国境を越えて多くの人の共感を呼ぶ。
一方で彼は、自らをとりまく社会的な状況にも敏感に反応している。資本主義やグローバリゼーション、都市の様相の変化、紛争、そういったものが直接、あるいは間接的に人々に及ぼす影響についても関心を持っているようだ。しかし、彼の写真にそれらのことが直接的に表現されているとは限らない。ティルマンスの写真はストレートなドキュメントではなく、彼というフィルターを通して見たものが表現される。
空間構成に意識的なのも彼の作品の特徴だ。一見、壁にランダムに並べられているようにも見えても、その位置は周到に定められているという。でもその写真は額装されることもなく、テープやピンで無造作に壁にとめられている。その軽やかさも面白い。カメラのレンズを通さずに暗室で印画紙を操作して作られた抽象的なイメージや、印画紙を折り曲げたりねじったりすることで生まれる三次元的な広がりも見せている。写真を平面という限られたエリアから解放し、新たな表現の幅を展開しているのだ。2014年のヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展では2台のプロジェクターで建築の写真を映し出す『Book for Architect』で話題を呼んだ。2枚の写真を組み合わせた、立体的な本のようなインスタレーションだ。ペアになった2枚の写真は単に形が似ているものをチョイスしたのだという。でも見る者はそこに何かしらの意味を探してしまう。
2000年にはイギリスで現代美術作家に贈られる賞の中でももっとも重要とされるターナー賞を受賞。今年は写真界の最高峰とも目されるハッセルブラッド賞の受賞が決まった。今回の個展は大阪のみの開催。日本では展示されることの少ない映像作品のほか、近作・新作を中心に200点近くが並ぶ。複雑にねじれた時代を彼がどう表現するのか、気になる展覧会だ。
text: Naoko Aono
『ヴォルフガング・ティルマンス』
会期:2015年7月25日〜9月23日
会場:国立国際美術館
大阪市北区中之島 4-2-55
TEL: 06-6447-4680
10:00〜17:00、金曜は〜19:00
(入場は閉館の30分前まで)
月曜休(9月21日は開館)
一般900円
http://www.nmao.go.jp/
《Sendeschluss / End of Broadcast Ⅳ》2014 年
Wolfgang Tillmans / Courtesy of Wako Works of Art, Tokyo
《waste power station》2011 年
Wolfgang Tillmans / Courtesy of Wako Works of Art, Tokyo
《young man, Jeddah, b》2012 年
Wolfgang Tillmans / Courtesy of Wako Works of Art, Tokyo
以上すべて参考図版