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「藤田美術館の至宝 国宝 曜変天目茶碗と日本の美」

「藤田美術館の至宝 国宝 曜変天目茶碗と日本の美」

実業家の志が守った仏像や茶碗の輝き

15 8/06 UPDATE

大阪城近くに建つ隠れ家のような「藤田美術館」は明治の実業家、藤田傳三郎とその子、平太郎・徳次郎らが収集した東洋・日本美術を展示する美術館。2111件の収蔵品のうち、9件が国宝に、52件が重要文化財に指定されている。その藤田美術館から貸し出された約120件ものコレクションが東京のサントリー美術館で展示されている。これだけの数がまとまって館外で展示されるのは藤田美術館にとって初めての機会だという。

藤田傳三郎が美術品を集め始めたのは明治維新に続く廃仏毀釈運動によって、仏像など仏教美術が失われてしまうことを危惧したからだった。また同じく明治維新によって大名や武家が没落し、所蔵品を売り立てに出す。さらには大名たちによって庇護されていた能や茶の湯の世界の人々も職を失う憂き目にあった。藤田は彼らが所蔵する品々が散逸、とくに海外に流出してしまうのを憂い、国の宝を守らなければ、との思いから絵画、墨蹟、漆工、金工、染織など多岐にわたる収蔵品を集めた。

会場に入ってまず目を惹くのは快慶作の重要文化財「地蔵菩薩立像」。写真からは大きく感じられるかもしれないが、実際は高さ60センチほどのかわいらしい像だ。袈裟は橙色に青や緑で遠山を描き、さらに截金(きりかね)を施したもの。奇跡的に鮮やかな色が残っている。今回は360度見られるよう、独立したケースに展示された。愛らしい姿を好きな角度で愛でられる。

国宝「玄奘三蔵絵」は唐時代の僧、玄奘三蔵の生涯を描いた絵巻。興福寺大乗院に伝わったものだが、秘宝とされていたため、こちらもきれいに色が残る。怪物がうごめく大海原を渡ろうとする玄奘三蔵や、まるで飛び石のように蓮の花が開く場面などは実にファンタジックだ。

世界に三碗しかないと言われる「曜変天目茶碗」はいずれも日本にあり、三碗とも国宝に指定されている。星のような大小の斑文が散らばり、その周囲が角度によって藍や青、虹色に輝く神秘的な茶碗だ。そのうち一つ、藤田美術館所蔵のものを今回、東京で見ることができる。他の二碗は斑文が内側だけに現れるのに対し、藤田美術館所蔵のものは側面にも輝く斑文が見られる。手のひらに載るほどの小さな碗に宇宙を内包するともたとえられる輝きだ。

展覧会の最後には「交趾大亀香合」が登場する。亀を模した大ぶりな香合で、甲羅は四色に塗り分けられている。1円が今の1万円に相当するとされる時代に、藤田傳三郎はこれを9万円で手に入れた。が、すでに病に臥していた彼はその10日後に死去。ついにこの香合を使うことはかなわなかったという。

このほかにも仏像や水墨画、茶道具、能面、着物などの名品が並ぶ。竹内栖鳳ら、近代の作家による作品も。近代化への波の中で失われていたかもしれない逸品を日本にとどめてくれた藤田家に感謝しつつ、その至宝を味わいたい。

text: Naoko Aono

「藤田美術館の至宝 国宝 曜変天目茶碗と日本の美」
会期:開催中〜9月27日
会場:サントリー美術館
東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガレリア3F
TEL:03-3479-8600
10:00〜18:00(金・土、9月20日〜22日は〜20:00)
火曜休館(9月22日は開館)
一般1300円

http://www.suntory.co.jp/sma/


1国宝 曜変天目茶碗
一口
中国・南宋時代 12~13世紀
藤田美術館蔵
撮影:三好和義
2交趾大亀香合
一合 中国・明~清時代 17世紀
藤田美術館蔵
撮影:三好和義
3重要文化財 地蔵菩薩立像
快慶作 一躯
鎌倉時代 13世紀
藤田美術館蔵
撮影:三好和義