15 8/25 UPDATE
銃口をこちらに向けて構える美女。1960年代、「射撃絵画」を制作するニキ・ド・サンファルの姿だ。絵の具が入った缶や袋をキャンバスなどに付着させ、そこに銃弾を撃ち込む。飛び散った絵の具が暴力的な軌跡を描く。伝統的な絵画と決別し、パフォーマンス的な要素を持つ「射撃絵画」は当時のカウンターカルチャーの盛り上がりと相まって注目を集めた。
自分が女であるということに対してさまざまな思いを抱いていたニキは「射撃絵画」とあわせて女性のイメージを作り始める。それは次第に丸みを帯び、鮮やかな色彩で彩られた女性像へと発展した。「ナナ」と名付けられた女性たちは好きなように着飾り、踊り、楽しげに振る舞っている。ニキは男女の関係性にも目を向け、カップルの像も多く作った。頭にテレビモニターが乗っている男女は向かい合ってスマホを操作する今のカップルにも通じる。宗教にも関心を持ち、キリスト教、仏教、ヒンドゥー教など世界のさまざまな宗教の神をモチーフにした作品も作っている。
ニキは幼少時に父から性的虐待を受け、20代のときに精神疾患に陥った。彼女の作品にはこういった個人的な傷も反映されているけれど、彼女の関心はそれだけではない。「射撃絵画」は当時、フランスの植民地だったアルジェリアでの殺戮など、世界各地の紛争や暴力を直接的にイメージさせるものだった。「ナナ」は家父長制社会や男女差別への告発と、性の役割に捕らわれない自由な女性像を示している。アフロアメリカンのイメージを積極的に登場させたのは1960年代の公民権運動とリンクしている。1980年代にはエイズの啓蒙にも取り組んだ。
1979年、ニキは「タロット・ガーデン」の建設に着手する。ニキはガウディの「グエル公園」や、南仏で郵便配達夫が手作りで作り上げた「シュヴァルの理想宮」にインスパイアされ、自作の彫刻が置かれた公園を作りたいと考えていた。最終的にそのヴィジョンはタロット・カードをテーマにした庭園として1998年に一般公開される。ニキは2002年に亡くなるまでこの公園に手を入れ、情熱を注いだ。この庭園は今も夏期に見学することが可能だ。
東京で開かれる大規模な個展は出品点数100点を超える国内史上最大規模の回顧展だ。ニキと個人的な交流を深め、ニキ美術館(現在は閉館)を作った日本女性、故Yoko増田静江氏が所蔵していた作品や、長年にわたって特別な関係を築いた二人のつながりにも光をあてる。強烈な造詣と強い意志で20世紀を走り抜けた女性アーティストに肉迫する。
text: Naoko Aono
ニキ・ド・サンファル展
会期:2015年9月18日〜12月14日
会場:国立新美術館
東京都港区六本木7-22-2
TEL: 03-5777-8600(ハローダイヤル)
10:00〜18:00(金〜20:00)、
火曜休(9月22日、11月3日は開館、11月4日休)
一般1600円
http://niki2015.jp
(クレジット)
ニキ・ド・サンファル《ティラノサウルス・レックス (キングコングのための習作)》1963年
ニキ芸術財団(協力:ジョルジュ=フィリップ&ナタリー・ヴァロワ・ギャラリー)/
撮影: ©Andrē Morin/Courtesy Galerie GP & N Vallois/© 2015 NCAF, All rights
ニキ・ド・サンファル《恋する鳥》 1972 年
Yoko 増田静江コレクション
撮影:黒岩雅志/© 2015 NCAF, All rights reserved.
《髑髏》2000年
Yoko増田静江コレクション
撮影:林雅之/© 2015 NCAF, All rights reserved.
《映画『ダディ』のカラースチル写真》
撮影:Peter Whitehead/© 2015 NCAF, All rights reserved.