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春画展

春画展

エロティックな描写の芸術性とユーモアを楽しむ

15 9/08 UPDATE

接吻でもしているのか、顔を近づけ合う男女。よく見ると女の尻がまくれている。男が持つ扇子には「蛤に嘴(はし)をしつかとはさまれて鴫(しぎ)立ちかぬる秋の夕暮れ」なる狂歌が。女の鬢の下から男の鋭い目がのぞく。喜多川歌麿「歌満くら」は直接的な表現でなくても充分にエロティシズムを伝えてくれる。

このほかにも春画にはさまざまなシチュエーションが描かれる。若い恋人どうしの睦み合い、中年夫婦がことの後でまったりとしている様子、遊女の水揚げ、覗きのシーンも。浮気もポピュラーなモチーフだ。面白いのは男の浮気だけでなく、女の浮気もよく描かれること。これらの物語は絵の中に書き込まれた詞書(ことばがき)によって語られることが多いから、詞書を読んでいくとさまざまなストーリーが楽しめる。春画は「笑い絵」と呼ばれることもあり、男女の行為にユーモアがからめられて笑みを誘う。源氏物語や忠臣蔵のパロディも描かれる。それら古典の教養があるとまた一段と春画が面白くなる。

春画は男性が一人で楽しむだけでなく、女性も、あるいは夫婦で仲よく眺めることもあったらしい。戦いに赴く武士が武運長久を願って鎧の中にしのばせた春画は「勝ち絵」と呼ばれた。初期の肉筆画は上層階級の人々のためのものだったと思われるが、江戸時代に版画が普及すると庶民まで広がる。さまざまな階層の人々が親しんだ娯楽だったのだ。

これら春画は、おおっぴらに展示・出版されることは少なかった。しかし、名のある浮世絵師なら必ずと言っていいほど春画を手がけている。春画がうまく描けなければ一流の浮世絵師とは認められないほどだった。春画は一時、禁制だったこともあり、幕府の検閲がない分、贅沢な素材を使い、手を掛けて作られたものも多い。日本美術を語るには欠かせない存在なのだ。

この展覧会は2013年に大英博物館で開かれ、多くの来場者を集めた「春画 日本美術における性のたのしみ」展の出品作を始め、国内外から集めた約120点を展示するもの。日本では初めて開催される本格的な春画の展覧会になる。肉筆春画ののびやかな筆致、髪のほつれまで表現した繊細な版画の表現、携帯して互いに見せ合ったと考えられる小さな「豆判」まで、技法による違いも堪能したい。

text: Naoko Aono

「春画展」
会期:2015年9月19日〜12月23日
会場:永青文庫
東京都文京区目白台1-1-1
TEL: 03-5777-8600(ハローダイヤル)
9:30〜20:00(日〜18:00、入館は閉館30分前まで)
月曜休(祝休日の場合は開館)
一般1500円
http://www.eiseibunko.com/shunga/

1喜多川歌麿「歌満くら」 浦上満氏蔵
2葛飾北斎「喜能会之故真通」 浦上満氏蔵
3「豆判絵暦 忠臣蔵大小暦」