honeyee.com|Web Magazine「ハニカム」

Mail News

「村上隆の五百羅漢図展」

「村上隆の五百羅漢図展」

村上隆が日本の美を凝縮した巨大絵画

15 10/26 UPDATE

高さ3メートル、長さ100メートルという巨大な絵画《五百羅漢図》。村上隆が200人もの美大生とともに描いた大作が日本に凱旋する。2012年、カタール・ドーハで展示され、大きな反響を呼んだ作品だ。「村上隆の五百羅漢図展」はこのほかにも大型彫刻作品や新作絵画が並ぶ、日本の美術館では14年ぶりの大型個展になる。

羅漢とは釈迦の教えを衆生に広める役目を果たすとされる弟子たち。種々の神通力を発揮するとされ、老人の姿で現されることが多い。村上がこの絵を描こうと考えたのは「芸術新潮」での美術史家、辻惟雄との連載がきっかけだった。辻が主に日本美術についてテキストを書き、村上がそれに応えて新作を作るという"対決"企画だ。この中で辻は狩野一信の「五百羅漢図」と長沢芦雪の「方寸五百羅漢図」をとりあげた。前者は100幅もの五百羅漢図をたった一人で描くことに挑んだ大作。後者はわずか3.1センチ四方の紙にぎっしりと羅漢を描き込んだ、超絶技巧による作品だ。大小のスケールが対照的なこの二つの羅漢画が村上を刺激し、壮大な絵画となって結実した。

完成した《五百羅漢図》には奇っ怪な老人の姿をした羅漢たちと、4面に分かれた画面のそれぞれを守る玄武・朱雀・白虎・青竜の4つの動物が描かれる。朱雀は手塚治虫の「火の鳥」、青竜は曾我蕭白の「雲龍図」にインスパイアされたものだ。そのほかiMacの初期画面に使われていた星雲の写真や狩野一信の「五百羅漢図」に登場した鬼などが村上流にアレンジされて登場する。芦雪の「方寸五百羅漢図」を捧げ持つ羅漢も。古今の日本美術の意匠が縦横無尽に引用されているのだ。

村上はかつて、辻惟雄の「奇想の系譜」を読んで感銘を受けたという。「芸術新潮」の連載にも伊藤若冲、狩野永徳、白隠慧鶴から井上有一、赤塚不二夫、インド美術や村上春樹までが登場する。今回の村上の個展には達磨像からインスピレーションを得た彫刻や、禅画の「円相図」とも思しき絵画も並ぶ。かつて村上は日本の美意識を「スーパーフラット」というキーワードで総括した。この個展で彼が引用する古今の和の美はそれを超えて、より多彩な様相を見せる。村上が現代の視点から解釈した日本美術の歴史が100メートルの画面に凝縮されている。

text: Naoko Aono

「村上隆の五百羅漢図展」
会期:2015年10月31日〜2016年3月6日
会場:森美術館
東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
tel: 03-5777-8600(ハローダイヤル)
10:00〜22:00(火曜〜17:00、11月3日は〜22:00、入館は閉館30分前まで)会期中無休
入場料:一般1600円
http://mori.art.museum/

1村上 隆《五百羅漢図》(部分) 2012年
個人蔵
©2012 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

2村上 隆《五百羅漢図》2012年
個人蔵 展示風景:「Murakami - Ego」アル・リワーク展示ホール、ドーハ、2012 年 撮影: GION ©2012 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

3村上 隆 《宇宙の産声》
制作中 Courtesy Gagosian Gallery, New York ©2015 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.