15 11/10 UPDATE
巨大すぎてとらえどころのないように思えるメガシティ、東京。アーティストが切り取る断片を集積することで、東京を理解する手がかりになるのでは? そんな展覧会が東京都現代美術館で開かれている。
展覧会の構成はちょっと複雑だ。長谷川祐子と難波祐子の二人が「メタ・キュレーション」を行い、YMO+宮沢章夫、蜷川実花、ホンマタカシ、岡田利規、EBM(T)、松江哲明ら6組がそれぞれ自ら、あるいは他のアーティストたちの作品をキュレーションして展示空間を構成する。スーパーフレックス、サーダン・アフィフ、林科(リン・ク)、目【め】の4組は新作を発表。その他、東京都現代美術館のコレクションを中心に1970年代以降、現在までの絵画を展示する。
この展示をまとめるのにメタ・キュレーターが設定したキーワードは「80年代」。「経済力を背景に世界中から人やもの、情報が集まり、東京オリジナルといえるものが華やかに登場してきたのが80年代という時代。70年の大阪万博とともに一瞬、戦後が完全にリセットされたと思えた時代です」と長谷川は言う。
展示は80年代の象徴ともいえるYMO+宮沢章夫がキュレーションするコーナーから始まる。宮沢は80年代的な要素として「身体性の欠如」を上げる。70年代のロックバンドが汗をかきながらドラムを叩いていたのに対して、YMOの高橋幸宏は汗もかかずに平然とプレイしていたように見えた、というのだ。
蜷川実花のインスタレーションは「竹の子族」が下敷きになっている。80年代に原宿の路上で踊っていた若者たちの写真だ。モデルでも芸能人でもない普通の人がストリート・パフォーマーとして脚光を浴びた最初の例だと長谷川は言う。今やインスタグラムやその他のSNSで誰もがアイドルになれる。蜷川の展示では竹の子族の写真の壁紙の上に彼・彼女たち現代のアイドルがきらめくように並ぶ。そこのあなたもアイドルとして注目を集めるかもしれない、きらびやかな自撮りブースも用意されている。「誰でも15分間は有名になれる」とのウォーホルの言葉はこれを指していたのだろうか。
岡田利規はピチカート・ファイヴの「マジック・カーペット・ライド」からインスパイアされた作品を作った。80年代には魔法の絨毯でどこへでも飛んでいけたけれど、今では有効期限が切れてしまって、飛べなくなってしまった。東日本大震災を機に横浜から九州に移り住んだ彼は、その距離感が80年代と今の距離感に通じると言う。
80年代の東京を知る世代に対して、外国人や80年代以降に生まれた日本人アーティストが提示するポスト80年代のアートも面白い。スーパーフレックスは上野公園に残る詳細不明の礎石とバブル経済崩壊以降、増加したホームレスを結びつけたシニカルなインスタレーションを発表している。スター建築家が表参道などに設計したハイ・ブランドショップの建物をホームレスのシェルターに見立てた作品だ。1989年生まれのナイル・ケティングと1990年生まれの松本望睦のユニット、EBM(T)はロボティクスや人工義手の研究からインスピレーションを得たTCFの作品や、禁酒・禁煙・禁欲を旨とする若者たちがコンサート会場で踊るジェレミー・ショウの映像などをキュレーションした。東京が加速していく未来の姿を見せる。
たった30年ほど前のことだけれど遠い昔のようにも思える80年代。その30年間にさまざまなことが大きく変わってきたのを改めて感じさせる。同時に80年代に蒔かれた種が生長し、これからもっと面白いことが起きそうな予感もさせる展覧会だ。
text: yk
「東京アートミーティングVI "TOKYO" − 見えない都市を見せる」
会期:開催中〜2016年2月14日
会場:東京都現代美術館
東京都江東区三好4-1-1
tel: 03-5777-8600(ハローダイヤル)
10:00〜18:00(入場は閉館30分前まで)月曜(11月23日、2016年1月11日は開館)、11月24日、12月28日~2016年1月1日、1月12日休
入場料:一般1200円
http://www.mot-art-museum.jp
イエロー・マジック・オーケストラ
1979年
©Photo by Masayoshi Sukita
テイバー・ロバック
《20XX》2013年
Courtesy: the artist and Team Gallery
黒河内真衣子 mame
《Personal Memory》
2014AW, Photo: Motohiko Hasui