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「サイモン・フジワラ ホワイトデー」

「サイモン・フジワラ ホワイトデー」

“工場”で“生産”される、虚実入り交じるアート

15 12/15 UPDATE

日本人の父とイギリス人の母を持ち、父母の国だけでなく世界各地で幼少期を過ごしたサイモン・フジワラ。世界各地でのグループ展への招聘も多く、2012年にイギリスのセントアイヴスで行われた個展は大きな反響を呼んだ。その彼の、日本の美術館では初めての大型個展が東京で開かれる。

彼の作品には絵画や立体、ビデオなど、さまざまなメディアが使われる。ときには他人が制作したものまで取り込んでしまうこともある。そのインスタレーションでは実際の社会的な事件や自らと家族の歴史が語られるのだが、そこにはときにフィクションが挿入される。虚と実が入り交じり、私たちがあたりまえだと思っていることを突き崩してしまう。

たとえば《再会のための予行演習(陶芸の父)》は、フジワラが幼少期に別れた父と再会するにあたり、父親役の男性を相手に行ったという練習風景が描写される。しかし観客はその設定のどこまでが真実でどこからがフィクションかを知ることはできない。《レベッカ》は2011年にロンドンで起きた暴動に加わり、逮捕されたという少女なのだという。少女は液晶モニターの製造工場に送られたというのだが、こちらも真偽ははっきりしない。

どの作品でもフジワラは明快なストーリーや解釈を提示することはせず、観客が自らの経験から独自の解釈を加える余地をたっぷりと残している。だから彼の作品を見て個人的な家族との記憶を思い出す人もいれば、歴史的・政治的な事柄を想起する人もいるというように、観客の反応は多様なものになる。作品を見る人の中に沸き起こるさまざまな感情や思念も、彼のアートの一部なのだ。

今回の個展では展示室全体が"工場"になる。生産ラインの一部では会期中に作品が"生産"される。この展覧会で私たちは豊かさとは何かを考え、さらには人間の複雑さやアートの持つ力を改めて感じることにもなる。「あたりまえ」だと思っていたことの足元が揺らぐ、心地よい不安定さを味わいに行こう。

text: Naoko Aono

「サイモン・フジワラ ホワイトデー」
会期: 2016年1月16日〜3月27日
会場: 東京オペラシティ アートギャラリー
東京都新宿区西新宿 3-20-2
tel. 03-5777-8600(ハローダイヤル)
11:00〜19:00(金・土〜20:00)、月、2月14日休(月曜が祝日の場合は翌火休、3月14日は開館)
一般1200円
https://www.operacity.jp/ag/

1《再会のための予行演習(陶芸の父)》2011/2013
所蔵:石川コレクション(岡山)
Courtesy of Guggenheim Museum, New York

2《レベッカ》2012
所蔵:石川コレクション(岡山)
photo: Koji Ishii

3《驚くべき獣たち》2015
Courtesy of Marian Goodman Gallery, Paris


Courtesy of the artist and TARO NASU