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『田中功起 共にいることの可能性、その試み』

『田中功起 共にいることの可能性、その試み』

一時的な共同体から生まれるアート

16 1/27 UPDATE

知らない人と一緒に小高い山の上の施設で昼も夜も過ごす。撮影隊もともに寝泊まりしていてその様子を記録している。参加者は料理をし、朗読し、会話をし、考え、陶芸をし、話し合う。でも彼らはそこに何の目的があるのか、何を意味しているのかはわからない。田中功起の個展「共にいることの可能性、その試み」で展示されるのは、そんな奇妙なワークショップの結果作られた映像だ。映像には田中のノートがついていて作品のコンセプトや背景、また制作を通して田中が感じたことが綴られている。

田中はパリやロサンゼルスなど海外に滞在した経験から、人と人との関係性に興味を抱いた。母国にいるのとは違って言語もコミュニケーションのコードも違う外国ではそういったことに意識的にならざるを得ない。東日本大震災を経て参加した2013年の第55回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展の日本館ではその前に制作した《1台のピアノを5人のピアニストが弾く(最初の試み)》(2012年)と《ひとりの髪を9人の美容師が切る(2度目の試み)》(2010年)に加え、《ひとつの詩を5人の詩人が書く(最初の試み)》(2013年)などの作品を展示、特別表彰を受賞した。

こういった集団による作品制作では田中は積極的に指示を出したり、何かを調整したりはしない。ものごとをどう進めていくのかは参加者どうしの話し合いによって決められることになる。その途中には相手への気遣いや感謝だけでなく、とまどいや他者への不満なども発生する。そしてときに、参加者も観客も満足して大団円、ということはなく、どことなく釈然としないものが残ることもある。

この小さな共同体は一時的な、仮のものだ。震災のあとなどには、そういった仮のコミュニティが生まれることがよくあるが、そういった非常時でなくてもミニ共同体が出現することはある。田中のワークショップに彼は、さまざまな可能性を見出している。見る者がその可能性をどう受け止めるのか、そこからまた新しい共同体の試みが始まる。

text: Naoko Aono

『田中功起 共にいることの可能性、その試み』
会期:2016年2月20日〜5月15日
会場:水戸芸術館現代美術ギャラリー
茨城県水戸市五軒町1-6-8
tel: 029-227-8111
9:30〜18:00(入場時間は17:30まで)
月休(3月21日は開館、翌日休)
入場料800円(1枚の入場券で会期中3回まで入場可)
http://arttowermito.or.jp

「一時的なスタディ:ワークショップ#4 共にいることの可能性、その配置」
2015-2016 制作風景 6日間の共同生活、ワークショップ、記録映像