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「建築家なしの建築」という名著がある。文字通り無名の人による、あるいは土着的な建築について論じた本だ。「雑貨展」はそのプロダクト版と言えるだろう。デザイナーはほぼ介在していないけれど極めて効率的に作られていて、使い勝手がいい。媚びのない佇まいに愛おしささえ覚える。
日本では半世紀ほど前まで、雑貨は「荒物」と呼ばれていた。やかんや箒、バケツといった生活に必須の道具だ。名も知れぬ人たちが作って名も知れぬ人たちが使うそれらの道具はあくまでも実用本位であり、ときに武骨とも映る。でも細かいところまでよく考えられていて、十二分に役立つ。今では雑貨の概念はもっと広がって、「雑貨店」の店頭には化粧品や食品、何に使うのかわからない雑多なガジェットまで並ぶようになった。
この展覧会はデザイン、アート、骨董、民藝や工芸、そのいずれにも属さず、それゆえかこれまでスポットがあたることがあまりなかった雑貨を主人公にしたものだ。出品者はそれぞれに雑貨について分析する。荒物問屋の松野屋とデザイナーの寺山紀彦は荷車に日用品を積んで販売していた行商の姿を現代の日用品で再現する。イラストレーター/グラフィックデザイナーの川原真由美の作品は「雑」という字を含む二字熟語から日本文化の独自性を考察するものだ。映像作家の菅俊一は20世紀初頭に活躍した民俗学者、今和次郎の「考現学」をもとに、戦後と現代の暮らしの変化を比較する。雑貨にインスピレーションを得たアーティスト、青田真也やフィリップ・ワイズベッカーらの作品も楽しみだ。
ディレクションは21_21 DESIGN SIGHTのディレクターの一人、深澤直人によるもの。深澤は静謐かつ独特の陰影を持つプロダクトをデザインするのみならず、「アフォーダンス」などの理論を援用したデザインに対する鋭い論考でも知られている。その彼が注目する雑貨の魅力とは何かが解き明かされる。
text: Naoko Aono
『雑貨展』
会期:2016年2月26日〜6月5日
会場:21_21 DESIGN SIGHT
東京都港区赤坂9-7-6
tel: 03-3475-2121
10:00〜19:00(4月28日は〜22:00、入館は閉館30分前まで)
火曜休館
入場料1100円
http://www.2121designsight.jp
「ZAKKA OBJECTS & DRAWINGS」(青田真也「」<撮影: 伊奈英次/『MOTアニュアル2014 FRAGMENTS』東京都現代美術館>)
「ZAKKA OBJECTS & DRAWINGS」(フィリップ・ワイズベッカー「RUBBER HOSE」)
WE MAKE CARPETS「Peg Carpet」(Photo: Bollmann/参考画像)