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幕末に活躍した歌川国芳、歌川国貞の二人の浮世絵師。彼らはともに初代歌川豊国の弟子でありながら、画風も生き方も対照的だった。苦労人で遅咲きの国芳は伝記物などで人気となる。一方国貞は若くして頭角を現し、遊女や歌舞伎の女形など美人画を得意とした。この二人の"対決"が楽しめる展覧会が東京で開かれる。
展覧会タイトルの「俺たちの国芳 わたしの国貞」は国芳が戦記物のヒーローなど、男の子向けの題材をとりあげることが多く、国貞は女子向きのモチーフに特色があることを示している。たとえば国芳の「相馬の古内裏に将門の姫君瀧夜叉妖術を以て味方を集むる大宅太郎光国妖怪を試さんと爰に来り竟に是を亡ぼす」は江戸時代の人気作家、山東京伝の「善知鳥安方忠義伝」のワンシーン。中央の源頼信の家臣、大宅太郎光国に大きな骸骨が襲いかかる場面だ。原作では等身大の骸骨が多数登場するという設定だが、国芳は巨大化させた骸骨を1体、画面全体に描いた。大胆な発想は人々の度肝を抜いたに違いない。
国貞に限らず浮世絵の美人画は今でいうファッション雑誌の役割を果たしていた。艶やかな着物の柄、豪奢なかんざしに女子たちはうっとりしながら次のショッピングのプランを練ったことだろう。歌舞伎役者ら男性も女子にとっては重要なアイドルだ。三代目岩井粂三郎を描いた「御誂三段ぼかし」、「浮世伊之助」など国貞が描いた千両役者の揃続絵(シリーズもの)には背景に可憐なぼかし模様があしらわれる。模様はそれぞれ、役者の「替紋」(かえもん・公的な家紋である定紋に替わって使われる家紋)と花を白抜きにしたもの。斬新なデザイン感覚は今も色あせない。
これらの浮世絵は明治期に来日した日本美術研究家、ウィリアム・ビゲローらが集めてアメリカに持ち帰ったもの。大切に保管されてきた浮世絵の数々はまるで昨日摺られたかのような鮮やかさだ。藍摺(当時、西洋から輸入された化学顔料「ベロ藍」の濃淡と、ほんの少しの紅などで表す)や雲母摺(きらずり・雲母の粉を散らしてきらきらさせる手法)など、手の込んだ仕上げも堪能したい。久々の里帰りに心が躍る。
text: Naoko Aono
『ボストン美術館所蔵 俺たちの国芳 わたしの国貞』
会期:3月19日〜6月5日
会場:Bunkamuraザ・ミュージアム
東京都渋谷区道玄坂2−24−1
tel: 03-5777-8600(ハローダイヤル)
10:00〜19:00(金・土〜21:00)
会期中無休
入場料 1500円
http://www.ntv.co.jp/kunikuni
歌川国芳
「相馬の古内裏に将門の姫君瀧夜叉妖術を以て味方を集むる大宅太郎光国妖怪を試さんと爰に来り竟に是を亡ぼす」
弘化元(1844)年頃
William Sturgis Bigelow Collection, 11.30468-70
Photographs © 2016 Museum of Fine Arts, Boston