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詩人・映画監督の園子温が25年前に描いた555枚の絵コンテ。そのときは撮影されず、引っ越す時もずっと持ち歩いていたそのコンテがついに映画化された。「ひそひそ星」というタイトルのその映画はアンドロイドの女性が宇宙船に乗り、広大な宇宙を彷徨いながら、人工知能ロボットに追い立てられて宇宙のあちこちで細々と生きている人間に「記憶の宅配便」を配達する、という物語だ。5月の公開に先立ってワタリウム美術館で、園にとって美術館では初めての個展が開かれている。
園は90年代に「東京ガガガ」という路上パフォーマンスを展開していた。渋谷のスクランブル交差点や新宿で巨大な横断幕を広げ、人も車も止めて大騒ぎする。それらの活動をChim↑Pomの卯城竜太らは「それってアートじゃん」と感じ、彼らのスタジオである高円寺のキタコレビル「ガーター・ギャラリー」で園の個展「ひそひそ星」を開いた。ワタリウム美術館での「ひそひそ星」展はそれに続くものになる。
2階から4階まである会場のうち、2階では映画に登場する人々の日常が障子の向こうに影絵で浮かび上がる。「ひそひそ星」では30デシベル以上の音をたてると人が死ぬおそれがある。だからここでもひそひそ声が聞こえてくる。園は「社会がすべてをひそひそさせようとしている世界観」が映画「ひそひそ星」のテーマの一つだという。この映画のシーンの多くは福島県の南相馬や浪江町などで撮影された。25年前の絵コンテの風景が今の福島に似ていたというのだ。声高に話せないことがある、そんな状況が映画に登場する架空の星と現実の場所をつなぐ。
3階では渋谷のハチ公をモデルにしたオブジェが並ぶ。100年後のハチ公をイメージしたものだ。壁には一面に、「ぼくはもうここにはいない」という一文で始まる詩が書かれている。真っ赤に塗られた壁に白いペンキで描かれた文章は檄文のような激しさだ。4階には「ひそひそ星」の絵コンテ555枚をすべて展示。が、実際の「ひそひそ星」にはこの絵コンテから今に適応するものだけをチョイス、60%に削って制作したという。
園は映画「ひそひそ星」について、「25年前の初心に戻って、すべてを振り出しに戻す、ゼロにする決意」で作ったと語る。「完成させたくなかった。できあがったものを土に深く埋めて、何百年かたってから上映したいと思っていた」とも言っている。「未来に作る映画の全部が『ひそひそ星』に詰まっている」と園がいう映画とあわせて、絶対に見たい展覧会だ。
text: yk
園子温展「ひそひそ星」
会期:開催中〜7月10日
会場:ワタリウム美術館
東京都渋谷区神宮前3−7−6
tel: 03-3402-3001
11:00〜19:00(水〜21:00)
月曜休
入館料:一般1000円
http://www.watarium.co.jp
「今際の際」の橋 2016年 撮影:岡倉禎志
「土台」2016年 撮影:岡倉禎志
「ひそひそ星」の絵コンテ 1991年 /「配達物」2016年 撮影:岡倉禎志