16 5/06 UPDATE
画家が撮った写真には秘密が隠されている。アメリカの画家、サイ・トゥオンブリーは90年代前半から写真を発表していたけれど、そこには彼が描かなかったものがあって、見る者はそれを覗き見るような気持ちになる。DIC川村記念美術館で開かれている展覧会は日本では初めて、トゥオンブリーの写真を本格的に紹介するもの。初期から晩年まで、彼が何を撮り続けていたのかがわかる。
トゥオンブリーが写真を始めたのは彼がブラック・マウンテン・カレッジでアートを学んでいた1950年代のこと。親交のあったロバート・ラウシェンバーグらが写真を撮っていたのに触発されたようだ。モノクロームで廃墟になったローマ風の建物などを撮っている。テーブルの上に瓶を並べて撮ったものなどはジョルジョ・モランディを思わせる。トゥオンブリーがモランディを意識していたかどうかはわからないが、二人とも瓶を並べかえてコンポジションの実験をしているのは興味深い。
その後、トゥオンブリーはしばらく絵画や彫刻に専念し、80年代になってから写真の制作を再開する。今度はカラーのポラロイドだ。会場にはポラロイド写真を約2・5倍に拡大してプリントしたものが並ぶ。描きかけの絵や画材が並ぶアトリエの内部、野菜やパン、花、海などが被写体になっている。
もともとポラロイドカメラはピントが合いにくい機械である上に、ざらざらした厚紙にプリントされているので、ほとんどの画面はぼんやりとしている。中にはぎりぎりまで近づいて撮ったものもあり、花や野菜はピントがあわずにボケている。風景写真なのかと思えば籠に入ったズッキーニのアップだったり、何が写っているのか判然としないものも。コップの上にパンを載せたり、ちょっと笑える表情のぬいぐるみがたくさん並んだところを撮っていたりとユーモアが感じられるものも。トゥオンブリーにとって対象を記録することは意味がなく、純粋に形に惹かれたものを紙に定着させているのだ。
会場には彼の絵画や彫刻、コラージュも並んでいる。中には写真に登場した作品も。彼はこんなふうに世界を見ていたのかもしれない。そう考えると、画家の創作の秘密にちょっとだけ近づけたような気になる。
tezt: Naoko Aono
『サイ・トゥオンブリーの写真‐変奏のリリシズム‐』
会期:開催中〜8月28日
会場:DIC川村記念美術館
千葉県佐倉市坂戸631
tel. 0120-498-130
9:30〜17:00
月曜、7月19日休(7月18日は開館)
入館料:一般1200円
http://kawamura-museum.dic.co.jp
《室内》1980 年 カラードライプリント、厚紙 個人蔵
《キャベツ》1998 年 カラードライプリント、厚紙 個人蔵
《ミラマーレ、海辺》2005 年 カラードライプリント、厚紙 個人蔵
《チューリップ》1985 年 カラードライプリント、厚紙 個人蔵
©Nicola Del Roscio Foundation, Courtesy Nicola Del Roscio Archives