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美術史のトピックをひとまとめにして「○○主義」「○○イズム」と名付けると、複雑な歴史の流れが整理できて便利だ。でも、それぞれ個性的なアーティストが作り出したものがすべてそういった用語ですっきりと分類できるものではない。大きな歴史からはみ出すものも含めて、突出した個性が作り出す時代のうねりを感じたい。そんな意図から企画されたのが『ポンピドゥー・センター傑作選』だ。
展示は1906年のラウル・デュフイ《旗で飾られた通り》から始まる。画家が住んでいたル・アーヴルという街のフランス革命記念日の様子を描いたものだ。抽象化された街並や旗で作者は、画面構成の実験を楽しんでいる。1913年の《自転車の車輪》はデュシャンが初めて作ったレディメイドだった。作者が自らの手でゼロから生み出すのではなく既製の、しかも日用品など本来アートとは関係のないものでアートを作る手法は「美術とは何か」という定義自体を問い直す。カンディンスキーの《30》(1937年)はドイツからパリに移り、厳格な幾何形体から生き物を思わせる有機的な形に変化した時期の作品だ。あらゆるものを梱包してしまうクリストの初期作品《パッケージ》は中に何が入っているのか、見る者の想像をかきたてる。
会場構成はパリを拠点にする建築家、田根剛。彼は作品ごとにアーティストの言葉をピックアップ、ポートレイトとともに展示することを提案した。作家の肉声や文章から、近代になってより存在感を強めることになった"個人"の様相が浮かび上がる。人間としてのアーティストを身近に感じることができる展覧会だ。
text: Naoko Aono
『ポンピドゥー・センター傑作展
ーピカソ、マティス、デュシャンからクリストまでー』
会期:6月11日〜9月22日
会場:東京都美術館
東京都台東区上野公園8-36
tel: 03-5777-8600(ハローダイヤル)
9:30〜17:30
月曜、7月19日休(7月18日、9月19日は開館)
観覧料:一般1600円
http://pompi.jp
ラウル・デュフイ《旗で飾られた通り》1906年
Photo: ©Georges Meguerditchian - Centre Pompidou, MNAM-CCI
マルセル・デュシャン《自転車の車輪》1913年
©ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2015 E1915
Photo: ©Philippe Migeat - Centre Pompidou, MNAM-CCI
ロベール・ドローネー《エッフェル搭》1926年
Photo: ©Bertrand Pr?vost - Centre Pompidou, MNAM-CCI