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荒れ果てた空間に佇み、座る人々。彼らはスーパーのショッピングカートを押し、電話をかけ、宴会のテーブルに座って料理を待ち、とごくありふれた日常の動作を見せる。でも彼らが身を置く空間はものが散乱し、崩れ、ひどく汚れている。この写真は福島第一原発事故により、避難を余儀なくされた人々が一時的にもとの家や店、職場に戻って撮ったもの。そこは彼らが長い間慣れ親しんだ場所であったはずだけれど地震と津波で倒壊し、手を入れる人もなく、動物や虫に荒らされて見る影もない。
かと思うと、町中に透明なバリアが現れて行く手をふさぐ。プラスチックの巨大な泡やセロハンが道を横切り、放置された工作機械や公園のブランコを包んでいる。このプラスチックやセロハンは写真家がそこにセットして撮影した、コンストラクテッド・フォトの手法によるもの。見えないけれど近づくことが許されない放射線の存在を暗示する。そう知ったとたん、私たちの足はその手前で止まってしまう。そこから先は行ってはいけない、頭の中で誰からともわからない警告が響く。
これらの写真を撮影したのはそれぞれベネズエラ生まれ、パリを拠点にするカルロス・アイエスタとパリ生まれ、東京在住のギョーム・ブレッションのユニット。彼らは2009年から二人で活動を始め、2011年から福島でのプロジェクトに着手した。2015年にはこのシリーズは第5回SOPHOT.comコンテストで表彰されるなど、各地で評価されている。
今回の展覧会では上記のほかに、夜間にフラッシュをあてて撮った、崩壊した街や海の光景、立ち入り禁止区域のスーパーマーケットに残された、腐った食べ物のシリーズなどが展示される。見慣れた風景が可視/不可視にかかわらず、それまでとはまったく違ったものになってしまった、そのことを強く感じさせて、私たちがしてしまったことの大きさに改めて愕然としてしまう。
text: Naoko Aono
『Retrace our Steps - ある日人々が消えた街
カルロス アイエスタ + ギョーム ブレッション写真展』
会期:6月24日〜7月24日
会場:シャネル・ネクサス・ホール
東京都中央区銀座3−5−3 シャネル銀座ビル4F
tel. 03-3779-4001
12:00〜20:00
無休
入場無料
http://www.chanel-ginza.com
作品シリーズ「光影」より2011-2013
作品シリーズ「悪夢」より2013-2014
作品シリーズ「不穏な自然」より2014-2015
作品シリーズ「回顧」より2014
© Carlos Ayesta + Guillaume Bression