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ポール・スミス展『HELLO, MY NAME IS PAUL SMITH』

ポール・スミス展『HELLO, MY NAME IS PAUL SMITH』

ポール・スミスのチャーミングなデザインの秘密。

16 6/09 UPDATE

カラフルなストライプ、一見オーソドックスに見えてちょっとめくるとラブリーな裏地が飛び出すスーツ。こんな服をデザインするポール・スミスの頭の中はいったいどうなってるんだろう? そんな疑問にすみずみまで答えてくれる気前のいい展覧会が「HELLO, MY NAME IS PAUL SMITH」だ。2013年にロンドンのデザイン・ミュージアムでスタート、ベルギーやスコットランドを経て日本ではまず京都に上陸した。このあと東京・名古屋へ巡回するが、ヨーロッパと同様、早くも大きな話題になっている。

展覧会はアートウォールから始まり、そしてポール・スミス第一号店と続く。わずか3メートル四方、週末の2日間だけ開けていたというショップだ。第一号店と同じサイズのブース内にはアフガン・ハウンド犬の写真が飾られている。「ヘアスタイルも、大きな鼻も僕にそっくりだろう? このショップは彼がオーナーで、僕はアシスタントだったんだ」とポール・スミスはジョークを飛ばす。

当時彼は、他の4日間はフリーのデザイナーやスタイリストとして働いていた。そのうちに彼自身のショップが軌道に乗ってきたので、徐々に売り場や営業日を増やしていったのだそう。

その隣には彼のオフィスを再現したコーナーが。ポール・スミスの好きな自転車(彼は10代のころ、自転車レーサーを目指していたがケガのため断念した)、友人のジョナサン・アイヴからプレゼントされたiMac、色とりどりのおもちゃやアート・ブックなどがぎっしりと積み上げられている。これらはすべて、彼のデザインのインスピレーション・ソースだ。

ここでは左隅にあるトランクに注目してほしい。中に鉄道模型のジオラマがセットされている。ミーティングで話が煮詰まってくると、このトランクをぱっと開ける、そうすると雰囲気が一新されて新たなアイデアがわいてくるのだそう。ポール・スミスは他にも一見変わったニワトリのおもちゃや鼻がついた眼鏡といった"秘密兵器"を隠し持っていて、ここぞ、というときに取り出してはみんなを笑わせる。

椅子やヘンな昆虫のおもちゃ、ボーリングのピン、郵便受けなどはあるファンから20年近くにわたって送られてくるメール・アート。梱包せず、オブジェにそのまま切手を貼って送ってくるのだ。筆跡から同一人物なのはわかるのだが、送り主の名前も住所も書いていないので、正体は不明なのだそう。ポール・スミスはこんなしゃれっ気のあるプレゼントが大好きだ。展示されているメール・アートもこの展覧会に出品するため、わざわざ日本まで運んできた。

ポール・スミスは世界中に店舗を展開しているが、ディスプレイはそれぞれのお店のスタッフが考えた個性的なもの。床板がはずれて、そのすきまからたくさんのアリが出てきて行列を作り、アリをデザインした服を着たマネキンにたどりつく、といったディスプレイはその一例だ。道行く人が思わずお、と足を止めたくなる楽しい仕掛けやストーリーがある。

この展覧会は3メートル四方の小さなショップから出発し、誰もが知るデザイナーとして世界各国にショップを構えるまでに成長した彼のサクセス・ストーリーなのだけれど、一番重要なメッセージは若い人たちに「僕にもできる」と思ってもらうことだとポール・スミスは言う。ささやかなスタートからバランスをとりながら成長していくことが重要なのだ。京都展の開幕直前、ロンドンから1泊3日で来日したポール・スミスは強行スケジュールにもかかわらず、周囲を気遣いながらぎっしりと詰まった予定をこなしていた。そのチャーミングな人柄にも成功の秘密があるのだろう。

text: Naoko Aono

ポール・スミス展
『HELLO, MY NAME IS PAUL SMITH』
会期:開催中〜7月18日
会場:京都国立近代美術館
京都府京都市左京区岡崎円勝寺町
tel. 075-761-4111
9:30〜17:00(金〜20:00)
月曜休(7月18日は開館)
一般1500円
http://paulsmith2016.jp

7月27日〜8月23日、東京・上野の森美術館、9月11日〜10月16日、名古屋・松坂屋美術館に巡回

13メートル四方の第1号店を再現したブース
2この展覧会のために特別にデザインされた「ミニ」。
3ポール・スミスが所蔵するアートや写真が飾られたアートウォール。
4オフィスの再現。