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一般の人が参加できる宇宙旅行の計画もあるけれど、まだまだそう簡単に行けるところではない宇宙。その宇宙からインスピレーションを得たアートを集めた展覧会が開かれる。鎌倉時代の曼荼羅から近未来の火星の住居計画まで、時空を超える展覧会だ。
まずは身も心も宇宙に向かわせてくれる体感型インスタレーションを楽しもう。チームラボの作品は映像に囲まれるインスタレーション。宇宙空間を八咫烏が飛び回り、ときどき観客にぶつかって色とりどりの花を咲かせる。八咫烏は日本神話で国生みに重要な役割を果たした三本足のカラス。花は生命の象徴だ。散っては咲く、その繰り返しは、生命が次々と生まれ変わるという輪廻を思わせる。野村仁はISSに滞在している若田光一が撮った月の写真を五線譜に重ね、月を音符に見立てて音楽をつくる。会場ではこうしてつくられた3楽章の交響曲のうち、2つの楽章を聴くことができる。
天文学やそのほかの科学が発達していなかった時代の宇宙観も興味深い。中でもレオナルド・ダ・ヴィンチやガリレオ・ガリレイらの天文学に関する手稿は貴重だ。宇宙のメカニズムを彼らがどう見ていたのかがわかる。その名も《流星刀》という日本刀は明治時代に富山県に落ちたという鉄の隕石(隕鉄)から作られたもの。研ぎ澄まされた刃があやしく光る。
現代美術作家も宇宙に独自の眼差しを向ける。ビョーン・ダーレムの大型インスタレーションは巨大なブラックホールを中心に回る銀河系や、11次元まであると言われている多元宇宙理論を表現したものだ。超高感度の天体望遠鏡がとらえた星の姿を元にしたヴォルフガング・ティルマンスの写真には極限のマクロとミクロが交錯する。
アートを通じて宇宙人について考察してみよう。「うつろ舟の蛮女」は江戸期の作家、曲亭馬琴がまとめた奇譚・怪談集に登場する丸い形の舟と、それに乗っていたという異国の女性の物語。それがいったい何なのか、諸説あるが、そのうちの一つにUFOと宇宙人というものがある。そんな昔から異星人が地球を訪れていたのかも、と考えるとなかなかロマンチックだ。パトリシア・ピッチニーニや空山基の立体作品はそれぞれに生命の定義を考えさせる。
そして、やっぱり宇宙に行きたい! と思ったあなたはロシアの宇宙開発に貢献した宇宙航空学のパイオニア、コンスタンティン・ツィオルコフスキーのスケッチ(複製)やNASAのコンペで1位になった2030年代の火星の住宅プランなどで夢を膨らませよう。いつの日か、それが実現する日が来るかもしれない。こんなふうに現実を違う角度から見せてくれるのがアートの力でもある。宇宙にまつわるアートで、精神をいつもとは違う場所に飛ばしてみよう。
text: Naoko Aono
『宇宙と芸術展:かぐや姫、ダ・ヴィンチ、チームラボ』
会期:7月30日〜2017年1月9日
会場:森美術館
東京都港区六本木6−10−1 六本木ヒルズ森タワー53F
tel.03-5777-8600(ハローダイヤル)
10:00〜22:00(火〜17:00)
会期中無休
一般1600円
http://www.mori.art.museum/
チームラボ《追われるカラス、 追うカラスも追われるカラス、そして衝突して咲いていく - Light in Space》2016年。サウンド:高橋英明
ヴォルフガング・ティルマンス《金星の日面通過》2012年。所蔵:ワコウ・ワークス・オブ・アート
トム・サックス《ザ・クローラー》2003年
Galerie Thaddeus Ropac, Paris/Salzbulg|撮影:Philippe Servent