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蝋燭のようなほの暗い灯りに浮かび上がる、ぼんやりとしたポートレイト。山のように積まれ、クレーンでつり上げられては落ちる古着。フランスのアーティスト、クリスチャン・ボルタンスキーはそんな死や記憶といった事柄を色濃く想起させるアートを作ってきた。日本でも新潟県の「大地の芸術祭の里」にある《最後の教室》や瀬戸内海の豊島にある《心臓音のアーカイブ》《ささやきの森》などの恒久設置作品を制作している。その彼の、東京では初めての個展が東京都庭園美術館で開かれる。
展覧会のタイトル『アニミタス』はスペイン語で「小さな魂」を意味する。また語源となったラテン語では霊魂や生命という意味もある。館内にはまるで"亡霊"たちがうごめくように影が踊り、遠くで鳴る風鈴の音が響き、声がささやく。会場の東京都庭園美術館は皇族の旧朝香宮家の邸宅だった建物だ。1933年に完成した建物にはフランス帰りの朝香宮の好みに合わせてアール・デコ様式が取り入れられている。この場所に込められた人々の思いや歴史とボルタンスキーの作品とが交錯して、濃密な時間と空間を作り出す。
ボルタンスキーは以前にはさまざまな死の中でも、とくにホロコーストを思わせるインスタレーションを多く発表してきた(彼の父はユダヤ系フランス人だった)。が、《最後の教室》など近年の作品はより普遍的な、多様な歴史を持つ人々に訴えかけるものになっている。作品をつくる上でビジュアルより物語が重要だ、とボルタンスキーは言う。彼はまた、「アーティストは、作品を見る人がそれぞれの物語を完成させていくための刺激剤だ」とも発言する。
「アーティストの仕事は問題提起をすること。しかし、答えは持たない。少なくとも私は持っていない。私はずっと問い続けているが、それは何百年も前からみんなが問いかけている問題だ」。でも私たちは普段、その問いを忘れている。ボルタンスキーのオブジェによって生じる影や音は、まだ誰も答えにたどり着いていないその問いを思い起こさせるためのものなのだ。
text: Naoko Aono
『クリスチャン・ボルタンスキー アニミタス−さざめく亡霊たち』
会期:2016年9月22日〜12月25日
会場:東京都庭園美術館
東京都港区白金台5-21-9
tel: 03-5777-8600(ハローダイヤル)
10:00〜18:00
第2・第4水曜休
一般900円
http://www.teien-art-museum.ne.jp/
《アニミタス》(クリスチャン・ボルタンスキー《アニミタス》(小さな魂)、2014年 Photo: Angelika Markul Courtesy the artist and Marian Goodman Gallery
《影の劇場》1990年 16のオブジェ(メタル、カードボード、ワイヤー、カセットテープ、木、葉など)、プロジェクター、ファン、コンバーター サイズ可変 Photo:André Morain Courtesy the artist and Marian Goodman Gallery