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「リビングルームII」ミシェル・ブラジー展

「リビングルームII」ミシェル・ブラジー展

さまざまな生命がくつろぐ、生き物たちのリビングルーム。

16 9/21 UPDATE

ガラスブロックから心地よい光が入る銀座のメゾンエルメス フォーラムに奇妙な「リビングルーム」が出現する。生きとし生けるものと、機械とがともに時を過ごす部屋だ。そこでは生きるものがひそやかに成長し、機械は静かに余生を過ごしている。作者はモナコ生まれのフランス人作家、ミシェル・ブラジー。フランスその他各国で作品発表の機会も多いが、日本では初めての個展になる。

彼の「リビングルーム」では植物、野菜、果物、昆虫、微生物などが発芽し、育ち、腐敗する(腐敗は微生物の成長の結果だ)。寒天がひび割れ、剥離することで描かれる壁画や、積み上げられたオレンジの皮が朽ちていく様子を見せる作品を発表したこともある。それらは「形あるものは必ず滅びる」という教訓を込めた現代のヴァニタスであり、どこまでもクリーンでニュートラルなものと信じられているアート・スペースの常識を覆す。同時に見る者は、それら朽ちていくものが持つ意外な色やフォルムの美しさに引き込まれざるを得ない。

現代社会では不衛生なものとして駆逐されてしまうカタツムリや鼠も、ブラジーの作品の重要な共同制作者だ。寿命を迎え、動かなくなった機械や型落ちした家電製品は植物に寄生されている。本来ならそれを生み出した人間よりも長い時間、"生き続ける"かもしれないのに、人間の都合で勝手に短い寿命を設定され、捨てられてしまう機械だ。私たちが生み出した文明は自然よりも優れているのかを問いかける。

ギャラリーを出ても、私たちの周りにはたくさんの生命がうごめいている。リビングルームはくつろぎの場でもあり、「living」という言葉は生命や、それが生きていることも想起させる。私たちはそれらを醜い/美しい、有用/有害などと価値をつけているけれど、そのことの滑稽さも含めてユーモラスに表現された楽しい「リビングルーム」だ。

text: Naoko Aono

「リビングルームII」ミシェル・ブラジー展
会期:2016年9月16日〜11月27日
会場:銀座メゾンエルメス フォーラム
東京都中央区銀座5−4−1-8F
tel. 03-3569-3300
11:00〜20:00(日〜19:00)
不定休
入場無料
http://www.hermes.com

1Pull Over Time (detail) |2016
Photo: Le Portique / Simon Desloges
2Sans titre |2013
ほうき、素焼きの植木鉢、土、ランプ|サイズ可変
Photo: Fanny Wahart / Collège des Bernardins, Paris
3Fontaine | 2015
グラス、水、食紅、保存料、石膏ボード|サイズ可変
Photo: Dorine Potel

ALL IMAGES : Courtesy of the artist and ART : CONCEPT, Paris